★演者に訊く 2009年8月
ゲスト
「ストリッパー・若林美保」


【全3回 其の2

  若林美保さんの第2回です。インタビューしている私(片岡)は申すまでもなく活動写真弁士なのである。いや、申したほうが良いかもしれないが、とにかくそうなのでアリマス。
 弁士とストリッパーの対談はそれなりに珍しいと思っておりましたら、なんとすでに昭和25年に行われておりました。新しいことをやるのは難しい、と実感する今日この頃。
 ちなみにその対談というのが私の大先輩にして話術の神様と呼ばれた徳川夢声と、当時ヌードの女王と呼ばれたヒロセ元美の対談です。興味のある方は探して読まれてみるのも一興かもしれません。藝能往來と読み比べなんて、とても文化的ではありませんか。『徳川夢声対談集 同行二人』(1950年・養徳社刊)という本です。復刊はされていないので頑張って探してみて下さいましな。




 では、若林さんのインタビューに参りましょう。

 

オリジナルである事、
それからお金が掛かる事

 面白そう、でストリップの世界に飛び込んだ若林さん、現在までステージを続けてこられたのは「面白かった」からだと思うのですが、それはどんな時に感じるのでしょう?

若林「大変だけど…、こんなに自分で考えたものを直ぐに出来るっていうのはないからね。小説とか書いたとしても、直ぐに出版出来る物ではないし、映画を撮りたいと思っても脚本書いて、企画持っていかないといけないじゃないですか。やりたい事を出せるっていう事ですよね」

 そもそもストリップの演目ってどうやって作られるんでしょう?

若林「別に衣装とかが支給される訳じゃなくて、自分でこういうのを演ろうかなあって思ったら、振り付けの先生はこの人に頼もうとか、衣装はこれにしようとか、選曲とか、練習用のスタジオ手配とか、全部自分でやるんです。踊り子(=ストリッパー)って交通費も衣装も全部自前なんですよ。だから稼いでも結構出て行くものも多い。1個の演(だ)し物作るのに、衣装から何からちゃんと作れば100万円とかなっちゃいますからね」

 先行投資が大変なのがストリップ。北は北海道、南は九州まで約40の劇場が各地にある。これら全てに出演する訳ではないが、ともあれ各地に自前で移動しているというわけ。このインタビューが掲載される8月15日の時点ではA級小倉劇場に出演中(8月11〜20日)。

若林「衣装代で30万とか経費が掛かったりとか。踊り子の衣装って市販の物じゃ駄目なんですよ。チャックとか弱いから脱ぐ用の衣装じゃないと駄目なんです。ちょっと豪華な物だと衣装だけで100万とか。私はそんなに掛けない事が多いけど(笑)」

 それだけの費用を掛けて完成した演目はどの位の期間演じられるのでしょう?

若林「別に強制じゃないんですけど、大体同じ演目は3ヵ月位。3ヵ月ぶりに同じ劇場に演(の)ったとしたら、前の演し物は基本的にやらない。自分が良いやって思えば、同じ演し物で辞めるまでいても良いんですけど、普通は変える(笑)」



撮影・スズキマサミ エイクエント東京事務所にて

 

 ちょっと補足。ストリッパーの皆さんはそれぞれが10日単位を基本に全国の劇場を移動しながら公演している旅藝人なのです。若林さんがいつも同じ劇場に出演しているのではない、ということ。若林さんの場合、これにクラブイベント等が加わったりもします。

若林「どんな演し物を作るかっていうのは自由なんですよ。最後に脱ぎさえすれば、何やっても良いんですよ。踊らなくても良いんです。15分なり20分なりのステージを一人でどうやって保たせられるか、自分で考えればいいだけなんです」

 そういったやりたい事を直ぐ出せるのが楽しさだと言う若林さんのステージは、いわゆるストリップらしくない個性的な演目が多いですが、いつ頃からそういった方向性になったのでしょうか?

若林「私の中では段々落ちついて来たってイメージなんですよ。元々、他人とは違うことをしたいっていうのがあって。なんでかっていうと、同じことをやってもその道のプロには敵わないから。でも他人と違うことをすればオリジナルだから、誰に負けるとか無い(笑)。だから違うことをしたいという想いは当初からあったんだけど、なんせ技能がないと出来るものじゃないじゃないですか」

 凄いポジティブなのか、それとも凄いネガティブなのか。その落ち着きを実感出来たのはどうしてなんでしょう?

若林「初めて(先生に)振り付けを頼まないでやった辺りから『良いんだ、これで』って吹っ切れたというか。毎週のように演し物を変えてた時期だったな」

 それは試行錯誤だったんでしょうか?

若林「あきっぽい」

 そっちですか。

若林「この演し物はこれでいいやってなると、もう面白くなくなってしまうというか。あと、思いついた!って時に演(だ)さないと熱が冷めちゃう。そうすると面白くない。楽しいうちにやらないと、っていうのがありますね」

 結果として多彩な演目を次々と掛けた。

若林「1日に(出番が)4回なんですけど、4回同じ演し物じゃなくても良いんですよ。同じじゃなくても良いっていうか、私の場合は同じのをやってると、1日がとても長く感じるので複数演(だ)すようにしてるんですよ。放っとくと4回とも違うのやってたりする」


撮影・スズキマサミ 横浜「浜劇」にて

 

 自分で好きな演目というのもあるんでしょうか、それともおしなべて飽きてしまう?

若林「そんな事はないですよ。着物の演し物がやっぱり好きかな」

 オリジナルである事にこだわる若林さんにとって、この人がライバルという人は居ますか?

若林「ライバルっていうか、自分に出来ないことをする人は尊敬できますね。そういう人、増えて欲しいなって思う。同じ事する人ばっかりになって欲しくない。初めて観に来た人にとって、(その日の出演者で)誰か1人好みに合えばいいと思うんですよ」

 若林さんが受ける層、受けない層というのもあるんですか?

若林「そんなのは…ありますよ(笑)いくらでも。間違いなくロリ系じゃないよな、みたいな。それを狙っちゃいけない。ストリップって身近なアイドル的に追っかけてるお客さんが多いんですよ」

 基本的には男性が女性を観に行く藝能だから、そこには男性の好みが反映される。

若林「新人の娘が好きな人もいますし、引退マニアもいますね。引退の時に突然現れる、みたいな(笑)」

 業が深い…。

若林「シルバーデーだと朝からおじいちゃんおばあちゃんばっかりだったり。・・・おばあちゃんはいない(笑)」

 女性のお客さんはいないんでしょうか?

若林「いますよ。最近結構女性の追っかけさんみたいな人も増えてきて。やっぱり女性に評価されるのって嬉しいですね。(私は)結構女性には気に入られます」

 多様な趣味に支えられているストリップ業界には演者さんは何人位居るんでしょう?競争はあるんでしょうか。

若林「何人…、数えた事ないですね。競争というかは分からないけど、仕事のある人と、ない人というのはありますね。ビデオで人気があるから仕事があるという訳でもないですし。適当な金額で、適当なパフォーマンスをする人が使われ易い」

 コストに見合った人ですね?

若林「人気はあるけど(ギャラが)高すぎるって人はこれぞって時しか使えないし、安いけど全然っていう人もアレだし。逆に仕事が続く人はずっと休みがなくて体調悪くしちゃう人もいますね」

 若林さんはどれ位のペースで劇場に出ているんでしょう?

若林「1ヵ月に5〜10日休みがあればなって感じでした。4週(40日)連投して、10日休みとか。ガンガンやってた時は3ヵ月ずっと地方を回ってるとか。その間に季節変わっちゃう訳ですよ。だから家から出るときにどんな服を持っていけばいいのか凄い考えるんですね。一回家に帰るとか出来ないですから、地方出たら」

 興行単位が10日間だったり、上下関係だったり、意外と寄席等の伝統藝能と共通点のあるストリップにもトリが存在しますが、トリをとるという事に対してどんな想いがあるんでしょう?

若林「お客さんにとっては自分の応援してる娘がトリっていうのはやっぱり嬉しいんじゃないかな。踊り子は、重荷になる方が多いんじゃないかな。・・・どうかな、人によるかな」

 重荷を感じる格がある?

若林「重荷はありますよ。だって(お客が)入らなかったらトリのせい、みたいなところとかあったり。そればっかりじゃないですけどね、時期とかにもよるんですけど」

 どの業界でもトリはやっぱり重みがある。


撮影・スズキマサミ 横浜「浜劇」にて

 

  

そのまま、何もしないで居られる

 では逆にストリップらしさってなんでしょう?他のダンスにない、ストリップの魅力とは?

若林「間が持つんですよ。ダンサーさんが言うことなんですけど、ダンサーさんは音を拾って、カウント取って踊るんですけど、ゆっくり手を出すだけで間を持たせる事が出来ない。それがストリップは出来るって言われます。『間が持っちゃうよね』って」

 間が持つ、とは?

若林「はじめは何かやってないと不安、みたいな気持ちがあるんだけど、ずっとやってると、大丈夫なんだって思える。他の人のステージ観ててもそうなんだけど、何もやってなくて飽きるとかないし、逆にそこで変にチョコチョコ動いてた方がおかしいみたいなシーンが一杯ある。デビューの人とかそうなんだけど、動いちゃうから気持ち悪いって人の方が多い。そこを観て、自分も居るだけでいいんだって勉強になる」

 自信を持って何もしないで居られる。

若林「そうそう」

 話術の神様・徳川夢声は話術の極意は喋らない「間」だと言いました。劇聖・九代目市川団十郎は舞台上で何分も何もせずに観客を惹きつけたそうです。若林さんの発言はそれらに通ずる、というと褒めすぎかしら。

若林「変な自信がつくんですよね。ステージに出てる時は自信満々で居られるんですよね。舞台袖では、どうしよう小心者って感じなんですけど。だってオリジナルだから間違いとかない訳だし」

 なにやら藝の極意のようなモノが飛び出してしまいましたが、今回はここまで。
楽しいとオリジナルが混ざり合った若林さんの今後の展望と、我々が知る機会のないストリップ業界内緒話を次回は聞きたいと思います。
 ではまた。


撮影・スズキマサミ 横浜「浜劇」にて

 

 

★若林美保HP「仏ぼくろちゃまのお部屋」
 
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=wakamiho

 

 それから今回もオマケ。ストリップ用語を二つばかり解説します。

その1 「香盤」
 「こうばん」と読む。ストリップでは興行における出演者のリスト並びに出演順を指す。寄席の世界では同業者間の序列を指す。元来は香道で用いられる盤の事だが、これが興行界に持ち込まれ様々な意味を持った。

その2「花電車
 「はなでんしゃ」と読む。女性器を使った芸。ラッパを吹いたり、吹き矢を飛ばしたり等。元は温泉芸者の裏芸だった。飾り付けをした路面電車の事を花電車といい、花電車は客を乗せなかった事から転じたのが語源。継承者は少ない。