★演者に訊く 2009年10月
ゲスト
「江戸太神楽・仙若 花仙」


【全3回 其の2

 最近、弁士の人達が盛んに自伝を出版しております。無声映画とか弁士とか、それなりに認知度が上がってきたかというと、そうでもないようです。近年、本もCDも売れなくなってきて、以前だったら相手にされない企画が通る事が増えた、というのが実際ではなかろうかと思われるのです。それにしたって最低限の認知度は必要でしょうけれどね。
 私は自伝には興味ないのです。特に若手の芸人が勢いで書いた奴にはさっぱりと。老境に差し掛かって、色々なしがらみから開放された後に書かれた自伝ならまだしも、若い頃の自伝なんて綺麗事ばかりだものなぁ。
 自伝よりも他伝の方が面白いと思うのです。藝能往來は他伝になり得るのか?そんな事をぼんやりと思い、原稿を書く台風の日でありました。

 ではインタビューに戻りましょう。


9月26日 柴又宵まつり にて (左・花仙 右・仙若)

 

太神楽の世界 世界の太神楽

 前回は太神楽の本藝は獅子舞である事、その獅子舞が全国に波及し、それぞれに独特の雰囲気を持っている事等を伺いました。
 獅子舞といえば頭を噛んで貰うという不思議な習慣がありますが、あれはどういった意味があるんでしょう?

仙若「僕らの太神楽の場合はお祓いの意味が強いんですね。以前聞いたことがあるんですが、元々はお金を頭の上にかざしまして、そのお金に欲に駆られた悪いものが全部集中して、それを獅子が噛み潰して、代わりにそのお金を貰っていくという……」


10月11日 新宿芸術天国2009 ヘブンアーティスト イン 新宿 (獅子舞を被っているのは仙若)

花仙「初めて知りました(笑)」

仙若「そうなの!?」

花仙「藝者さんとか(頭にかざすの)皆やってくれますよね」

 藝者さんの世界には古風な習慣が残っているとはよく聞く話。

仙若「遊びが入ってくると胸元にお札を挿したりして、どう食べる?みたいな感じで遊んだりするんです。そこを獅子がわざと焦らしたり(笑)」

 つまり邪気を噛み潰すために、獅子に噛んで貰っているのですね。

仙若「地域によっては手を噛むとか。色々いわれが違うので分からない事も多いですね」

次に獅子舞を見たらお札をかざすと分かってる客になれるかもしれない。五百円札なんで無くなっちゃたんだろ。


9月26日 柴又宵まつり にて

 

 全国に存在する太神楽。仙若さん、花仙さんも様々な場所に行かれるんですか?

花仙「フランス、愛・地球博……美味しかった」

仙若「食物か」

花仙「ウチって1人でやったり、コンビでやったり、4人以上だと生音でやったり、色んな編成でやってるんですよ。最初は大勢の仕事に連れて行って貰う感じだったんですけど、初めて投げ銭じゃなくて、ギャラを貰って1人で行ったのが岩手の中学校でした」

 初めて自分で貰うギャラは嬉しいものである。

花仙「上野公園で大道芸をやってたときに、修学旅行生が、わぁって見てくれて、教頭先生と名刺交換をして『やってくれない?』って。会社の社長さんが話すよりも、歳の近私が、こんな仕事もあるんだよって言ってくれた方が良いということで、太神楽をやって、偉そうに講演とかしてきました(笑)」

 大道から縁が生まれた。

仙若「戦後は、太神楽は寄席で残った藝能という側面もあるんですけど、親方(丸一仙翁)は親方なりの考えがありまして寄席を飛び出てしまったんです。僕らが太神楽を始めた時には既にそういう状態だったので、ど新人の僕なんかは演芸場に立つ機会というのはほとんどなかったですし、寧ろ自分で営業して披露する(演じる)場所を探したりしてました」

 若手の修行の場が無いのは、どの業界でも等しくある問題。

仙若「大道芸でやっていいですか?と親方に聞いたら『やって良いよ』と言って頂いたのでやり始めたんです。柴又の帝釈天だったり、上野公園とか、井の頭公園でやったり」

 ヘブンアーティストの資格を取って?

仙若「いえ、制度の出来る前です」

 ヘブンアーティストとは2002年に東京都で創設された、大道芸人やミュージシャンに公の場での活動を認める資格制度のこと。そのライセンス保持者をヘブンアーティストといいます。


10月11日 新宿芸術天国2009 ヘブンアーティスト イン 新宿

仙若「大道でやっている内に、実力も上がってきて、結局最初は投げ銭で食べられたんですよ、僕なんかは」

花仙「大道芸の道筋を付けてくれて、やり方も全部教えてくれました」

仙若「大道芸を見てくれた人から営業が広がったり、イベントの仕事が来たり。この間のイギリスの仕事も、大道芸の仲間がいるんですけど、その人から紹介を貰ったんですよ。大道芸が僕らにとっては原点なんですよね」

 海外にも行かれてるんですよね。

花仙「花はフランスだけです」

仙若「海外は僕もそんなに行ってないんです。アメリカ、韓国、ニュージーランド、イギリス、デンマークですね。ニュージーランドは『ラストサムライ』の撮影に役者で行って、外でやったり、レストランでやったり。残念ながら撮影で傘は廻せませんでした(笑)。戦闘シーンばっかりだったので」

 傘で戦っちゃ必殺仕事人になっちゃうもの。
 国によって反応は違いますか?

仙若「基本的には同じでしたね。日本ともほとんど同じ。違う所も一部ありましたけど。細かすぎるところは分かんなかったりしますね。傘の曲芸は喜んでくれる人と、何じゃこりゃ?って不思議な顔して見る人と、それぞれ違う感じでしたね」


ヨーロッパ公演にて

 海外での客層は?

仙若「現地のジャグラーさんが見に来てました。ショーが終わった後にワークショップがあったんですけど、相当食いついて早く終わりたい位でしたけども」

 でも、海外の曲芸師が傘廻しをやりたくても洋傘では枡は廻せませんよね?

仙若「無理ですね」

花仙「でも鞠・枡だけなら浅草で売ってる千円のお土産の番傘でも廻せますよ」

 もしかしたら今後洋傘を使った太神楽の曲芸が海外で開発されるかもしれません。かつて太神楽によって獅子舞が全国に広まったように。


ヨーロッパ公演にて

 

太神楽 道具と演目と

 折角話が出たので道具の事を伺いましょう。客席から拝見すると普通の傘、でもそれって特殊な物だったりするのでしょうか?

仙若「特注品ですね。傘専門の業者さんにお願いして数本単位で作ってもらったりとか」

 ではお値段もそれなり。

仙若「高いです」

花仙「でも消耗品なんですよ、高いのに。1年もてば、って言われてますね」

仙若「骨も生地も駄目になりますね」

花仙「直しながら使ってるんですけど、でもやっぱり」

仙若「あと綺麗さですかね、営業に汚いものを持って行く訳にはいかないので」

花仙「お日様の下でやってると、色がどんどん白くなってきて(笑)」

 普通の傘とはどんな風に違うのでしょうか?

仙若「大きさが普通の規格では売っていない物で、大きくて骨が太くて……」

花仙「雨に弱い(笑)」

仙若「生地がカヤみたいな素材なんで、雨が降るとむしろ漆が落ちたり、色が落ちたり、生地がカパカパになって、切れやすくなってしまうんです」

 雨が降ると傘がお釈迦になっちゃう?

仙若「傘なのに……」

花仙「傘を一番最初に守ります。自分は濡れても傘を守ります」

仙若「そういう訳にもいかなかったりするんですよね。お客さん残して帰る訳にもいかないですし。傘の藝早く終わらして、濡れても大丈夫な藝に変えたりとか」


9月26日 柴又宵まつり にて

 

 道具についてはお2人が争うように発言をしてました。いかに道具に想いいれ(=苦労)があるかが分かります。
 撥(ばち)を口に咥えて、土瓶を乗せる藝がありますが、あの土瓶も消耗品?

仙若「バンバン割れますね。練習用のは割れたのを接着剤でくっつけて使ってます」

 土瓶にも扱いやすい形があるということ?

仙若「形がありますね、大きさと重さと。ふたの大きさ、口が付いてる位置だとか」

 物を使った藝ならではの苦労です。ちなみに演目数はどれ位あるのでしょう?

花仙「太神楽十三番て言われて、13種類あるらしいんですけど、茶番とかも含まれてるんです」

 茶番というのは?

仙若「滑稽掛け合いですね」

 通常使う「とんだ茶番劇だ」という言葉の語源が太神楽の茶番。

花仙「でも当時のままやってるから、何が面白いのか良く分かんないんです。お爺ちゃんとかお婆ちゃんが笑ってて、今の笑う所だったんだって(笑)」

 これからさらに分からなくなってくると思うんですが、それでも絶やすつもりはない?

仙若「そうですね。両方やっていかなきゃいけない。残していきながら新しいものも工夫して」

 現代にウケる茶番を作るつもりもあり?

仙若「僕の意思の中ではあるんですけど、1人では出来ないですから。ただ、今のお笑いみたいになっちゃうと(茶番としての)面白みが無くなっちゃうので難しい所なんですけど」

 他の十三番というと?

仙若「資料で残ってる物があるんですけど、今僕らがそれを見ても不思議に思うようなのがありまして、どこまでが十三番なのか分からない部分もあるんです」

花仙「今、人前では誰もやっていない感じのもあります。文字としては残ってるけど」

 どうして誰もやらなくなってしまったんですか?

仙若「地味だからですかね。例えは相生茶碗というのも今では見かけなないんですけど、投げる曲芸で言うと一つ鞠という藝の中に色んな技が含まれてしまってたり、しかももっと長くて綺麗に見える訳ですよ。お客さんからすると、ただ物が変わっただけで。お茶碗割れますし(笑)」

 藝にもリストラがあるという悲しいお知らせでした。
十三番中で本藝が獅子舞であるのは前回ご紹介した通り。獅子舞といえばお正月のイメージがありますが。

仙若「上旬は結構入ってきますね。昔は旧正月まで一杯で、それで1年食えたと」

 さすがに現代は正月だけで暮らすのは無理なようですが、それでも活躍期なのは事実。では皆様、獅子舞はお正月どこに現れるでしょうか?これ、次回まで考えてみて下さい。それから丸一仙翁社中の皆さんが毎年1月4日に行ってる恒例事があります。実に藝能の香りが濃厚な行事なのですが、それはなんでしょう?これも考えてみて下さい。
 次回は、仙若さんと花仙さんが太神楽を現代に向けてどのようにアプローチしているのかを伺いたいと思います。

 


撮影・スズキマサミ(ヨーロッパ公演写真以外)