★演者に訊く 2009年10月
ゲスト
「江戸太神楽・仙若 花仙」


【全3回 其の3

 鳩山新政権が誕生してから一ヶ月以上経ちました。世の中には目立つ変化と、目立たない変化があります。新政権誕生なんという大きな変化がある時には目立たない変化が、いっそうその姿を隠してしまうものです。
 ところが、その目立たないほうが変化の要だったりする事も少なくありません。噺家は浮世のアラで飯を食い、とは何も落語家さんばかりを指したものではなく、藝事に係わるもの全体を本来は指しているのではないかと思います。
 世間の変化に我関せずと、超然とした態度をとりたがっていても、藝人は意外と世間を気にしているものなのです。
 各メディアも有識者にばかり新政権の評価を聞かないで、寄席芸人あたりに聞いてみると面白いコメントが取れるかもしれません。そしてそういう工夫こそが大事なんではないかと思う次第であります。


10月11日 新宿芸術天国2009 ヘブンアーティスト イン 新宿
(獅子舞を被っているのは仙若)

●お正月も時代と共に

 江戸太神楽の仙若さん、花仙さんへのインタビューも今回で最終回となってしまいました。前述の通り新政権はスタートしましたが世の中はまだまだ不況一色、かつては正月の稼ぎで1年食えたそうで、現在はそこまでではないものの、稼ぎ時なのは間違いありません。どんな所で太神楽の方々を見る事が出来るのでしょう?

仙若「ホテルの新年会だったりとか……。三が日は同じホテルが決まってたりしますね。毎年決まった方が泊まっていて、孫や子供と来て待っててくれる、みたいな事もあります」

花仙「あと1月4日は毎年、日本橋を門付け(かどづけ)してます」

 門付けなんて全く知らない方もいらっしゃるしょう。門、つまり家を一軒々々訪ねて歩き、そこで祝詞や藝を披露し、その返礼としてお金や米等を貰う神事的・藝能的習慣が昔の日本ではポピュラーだったのです。
 現代は地域の結びつきが弱体化して、反面プライバシーの意識が過度に強化されてしまった為に門付けは実行が非常に難しい行為になってしまいました。

仙若「老舗の会社ですとか、日本橋に住んでる人達も笛を吹いて行くと窓を開けてくれて」

 日本橋はまだまだ門付けを受け入れる家も会社もあるというのが嬉しくなりますね。

仙若「でも住んでる人も居なくなったり、会社も変わるじゃないですか。ビルの中に入っていって、一つの会社だけって事も今はありますね」

 それはチト寂しい。

仙若「時々行ってると『ウチもやって』とか『今度来るときは声かけて』とか、ご新規さんだと(笑)」

 地道な営業が実を結ぶ事もあるのです。門付けは日本橋だけですか?

仙若「違う一門の人達は浅草を廻ってるみたいです。伊勢の方なんかは今でも半年〜1年廻ってるグループがあるみたいで、僕らのメンバーからも『人が足りないから助けてくれ』って言われて3ヵ月くらい名古屋・岐阜辺りを廻った者がいました」

 1年中門付けをして廻る方々を取材するだけで面白いドキュメンタリーが撮れそうな予感。

花仙「私が入門した年くらいは、1月4日にはお正月の雰囲気が残ってたのに、いまでは4日とかバリバリ普通に働いてるから、変な人みたいになったり(笑)」

 オメデタイ奴らだと思われちゃう。

仙若「もう正月終わったよ、みたいな感じで」

 正月って三が日までですかね?

花仙「2日で最近は。3日には普通の日に戻ってますね、一昨年くらいから。どんどん短くなってきてます」

 

●これからどんな工夫を?

 変化も当然ある中で、貴重な活動もされているのが分かりました。では太神楽のお客さんはどんな方が多いのでしょうか?

仙若「年齢層は広いですね」

花仙「2歳の子とか。親と子のナントカみたいな親がお客さんとしてはメインだよねってイベントでも子供がノリノリで見てくれたり」

 それだけ視覚的に面白いんでしょうね。

花仙「あと良く分からないんですけど、幼稚園の年少さんとかに(傘の上で)金輪を廻す曲藝を見せて、ネタで『これ川崎競輪』て言うと爆笑してくれる子が必ず1人は居るんです(笑)」

 家でよく聞く言葉なんでしょうねェ……。

仙若「心配しちゃうよね」


9月26日 柴又宵まつり にて

 ご年配は?

仙若「制限はないですね。獅子舞をやった時に涙を流される方がいらっしゃいますね。そういう時は、こちらこそありがとう御座いました、みたいな気になりますね」

 中学生や高校生あたりの若い人に獅子舞や曲芸を見せた時の反応は?

仙若「それこそ写メ撮って、いぇ〜いって」

花仙「ミッキーマウス状態ですね」

仙若「下手に説明すると引いちゃったりするんで、何も喋らないほうが良かったりしますね。一番難しい世代です」

 勿論、そういった世代にも伝わるように工夫をされていると思うんですが、これからはどんな風に太神楽をやっていきたいですか?

花仙「曲藝がやりたくて入門したんですよ。最初は出来てる内に入んないよねっていう出来でも、こんなに出来るようになった、って人に見せる勢いだったんですよ。でも自分が何年かやってきたら奥が深すぎて、自信が出るどころか、どんどん自信が無くなってるんです」

 一つづつ藝を習得していきたい?

花仙「今、一番どうしたら良いのか分からない状態(笑)。目の前にある事をやらして貰うので精一杯みたいな部分がありますね」

 とりあえずの目標は?

花仙「目標、無いのかな(笑)」

仙若「彼女は一番稽古をしてますよね。親方がもう勘弁してくれっていうぐらい、食らいついて稽古してます(笑)。そういうガムシャラな姿勢は皆にも良い影響を与えてると思います。」

花仙「今を生きるのに精一杯で目標が無いです!NO太神楽 NO LIFEなんですけど(笑)」

 目標も、生活も太神楽に集約されるのが現在の花仙さんの様です。
 では仙若さんは今後に向けてどんな取り組みを考えていらっしゃいますか?

仙若「とにかく続けていく事が恩返しだと思ってます。一つは子供たちに観て貰える場をもっともっと作りたいなと。幼稚園だとかに廻る方法をどうしたらいいのかと考えてます。大道芸が一番子供たちに伝わる場だな、とも思っているので続けていきたいですね」

 さっきも話に出た若い学生世代に向けてのアプローチは?

仙若「無理にそこを追求しなくても良いかな、っていう状態でもあるんです。お笑いの中で見せられればなあと思ったり、どうやって見せるか考えている所ですね」

花仙「江戸太神楽っていう言葉を憶えて欲しいです」

仙若「太神楽を浸透させるっていうのは一番大事な事かもしれませんね」


10月11日 新宿芸術天国2009 ヘブンアーティスト イン 新宿

 大江戸太神楽とか江戸太鼓神楽とかアレンジを加えて憶えられてしまう事もあるのだとか。

仙若「たまたまなんですけど、今度太神楽の人達がメインで、その中に噺家さんやマジシャンが入る寄席をやる事になりまして。そこで僕らも腹をくくってチャレンジしてみたいかなと思ってます」

 そうしたチャレンジから個性が生まれてくる?

仙若「廻す物にしてもバリエーションを増やして良いと思うんですよね。トークにしてももっと今の風刺を入れてやってみたりとか。傘にしても特別に作って貰って二重三重にしたり、幾らでも考えられるはずなんですよ。昔の演目をやるだけでも大変なんですけどね」

 太神楽が広まってゆけば、さらなるバリエーションが増え、他藝のパフォーマーが太神楽の技術を取り入れるのも予想されますが、太神楽を太神楽たらしめているものとは何だと思われますか?

花仙「考えた事も無かったです。ただ好きでやってるので。太神楽が生活の一部で、太神楽をやめろって言われたら、死ねって言われてるようなものですね」

 それが藝としては一番だったりもします。

仙若「僕らが太神楽じゃないって言われる事もあります。宗教的な物を持ってない、神職の資格を持ってないじゃないかって人達も居るんですよね」

 神事藝能ならではの問題です。

仙若「そう言われてしまうと何も出来ないんですけど、曲藝でも皆が幸せになるようにって口上が付いてくるじゃないですか。大事なのは皆が幸せに楽しくなる為に、っていう単純な事なんですけど、精神的なものが太神楽で、上手下手でもないし、技術でもないし」

 前提として他者の幸せを願う在り方が、ジャグリング等の曲藝と太神楽を分かつもの。

仙若「そこを大事にしていけば、広がったり伝わっていくんではないかと思うんですけどね」

 
 
 世の中は急速にデジタル化が進んでいます。情報を伝えるのが容易になりました。藝能往來だって、その恩恵に与っています。けれども反面よく言われるのは「これからは生の時代だよ」という事。大量の情報が居ながらにしてやり取り出来る様になればなるほど、些細な気持ちを伝える難しさを感じる人が増えているのでしょう。だからこそ、生なのだと思います。
 デジタル=無機質・冷たいという考え方には必ずしも同意しませんが、直接の触れ合いの良さは再確認する事が多くあります。
 目の前に居る人の幸せを願うという、最も単純な原理に貫かれている太神楽は、これからの時代に大事な意味を持つ藝かもしれません。


10月11日 新宿芸術天国2009 ヘブンアーティスト イン 新宿
「皆様のご多幸を願いまして、お手を拝借」十三代家元 丸一 仙翁

 

■公演予定
今回のゲストの仙若さんも出演する
大道芸の大会が開催されます。
江戸太神楽はもちろん、様々な藝能が見れますよ。
 
2009年10/25(日)「三茶de大道芸」  
  http://www.setagaya-ac.or.jp/arttown/  
2009年11/3(火祝)上野広小路亭「東京寄席」
  http://tokyoyose.ikidane.com/
2009年11/7(土)8(日)「にぎわい爆発 あつぎ国際大道芸」  
  http://www.atsugi-kankou.jp/daidogei/index.html

さらに仙若さん、インタビュアーの片岡一郎、
そしてなんとNHK交響楽団・第一コンサートマスターのMAROさんこと、
篠崎史紀さんも出演の舞台も御座います。
〜歌のない音楽劇〜
『 夢 D’o? viens-tu? O? vas-tu ? 』

2009年11/25(水)26(木)27(金) 浅草木馬亭
一本のヴァイオリンが紡ぐ、4編のオムニバス。
多ジャンルの表現者による夢の狂演。
●詳しくは公演サイトで
 http://ameblo.jp/lefarproduce/

 

撮影・スズキマサミ