★演者に訊く 2009年12月
ゲスト
「声優・江上リノ、酒井相一郎」


【全3回 其の2

 私的な事では有りますが、この原稿を書いてから数日後に私は海外公演でクロアチアに参ります。12月10日に出発、13日本番、15日帰国なので、現在やや前倒しで原稿を書いているという訳。
 無声映画時代に弁士という文化が極端に発達したのは日本だけ。そして声優という文化がこんなにも発達したのもやっぱり日本だけなんだそうです。他の国では俳優さんがやる事が多くて、声に特化した役者というのはあんまりいないんだそうな。つくづく日本人はお話を聞くのが好きなんだと思いますね。
 そういえば海外に行くとなると必ず誰かに「お土産話楽しみにしてるね」と言われますね。内心では、無ぇよそんなモン、と思ったりもしますが、そこは笑顔でうなずいて渡航というのが我々の基本的なスタイルではないでしょうか。
 以上を前提としまして、次回の記事でクロアチアのお土産話が出来たらしますね。

 前回のお話で分かったのは声優って食ってくのが思ったよりも大変、という事でした。なのに、それなのに声優志望の若者は後を絶たないのです。芸人になった方が食えるのに。そこまで彼らを掻き立てる声優業の魅力とはなんなのか。いや、風呂敷広げすぎかな。


●どこからがプロ?

 そもそも声優のプロとアマチュアの境界線はどこにあるんでしょう?

江上「食べて為にはバイトしてかなきゃいけなかったりもするんですけど、一旦ギャランティーをいただいた時点でプロの仕事をしているって思いますね。だからデビュー作からプロであると」

酒井「そうですね。一本お金の入る仕事をした時点でプロだと思っていないと上にあがれない」

 ではプロの定義はギャラが発生する、ということ?それではドライ過ぎる気もしますね。

江上「ユーザーさんがいる、っていう事もですかね。自分の演技にお金を払ってくれる人がいる。芝居だったらチケットを買って足を運んでくれる人がいた時点でプロだし」

江上リノ

 プロであることと、経済の原理は切り離せない。でもアマチュア劇団も入場料を取って公演している。彼らはプロ?アマ?

江上「私はプロとは認めませんけどね」

 実はこの問題、永遠に答えが出ないのだ。資格のない表現者の場合、プロである事を支えるのは矜持だから。逆に言えば、俺はプロだと言われたら誰も否定出来ないのだ。

酒井「だから誰でもやれちゃうっていうか、劇団が増えるっていうか。劇団によってはサークル的なノリが強いなって思う部分はありますね。自分達のやりたい事をやってお客さんを意識しない。お客さんを意識するとお金がかかっちゃうっていうのがあるんですけど」

 お客さんの目線を意識する。

酒井「プロならお客さんの事を考えなきゃいけない」

 お客さんを置き去りにしてはいけない。といっておもねるのも好ましくない。
 お客さんのニーズという点では、最近声優を目指している女の子が店員をしているメイド喫茶(コンセプトカフェという言い方もあるそうな)が誕生し、それなりに人を集めている。ここでは女の子がプロではない事が商品価値な訳ですが、この現象をどう思いますか?

江上「プロになれるかも知れない。でもなってから苦労するのはあなた達だよ……なんて偉そうな事を言ってますけどね(笑)。ちょっとそれは待ったっていう感じですかね」

酒井「僕はしょうがないと思っている部分があって。今は、もうホント情報が溢れすぎていて。人が一杯いるなかで、この人は何がしたい人なんだろうっていうのを明確にしたら、使う側は使い易いんじゃないかと思ったんですよね。今は多少目立っても目立てない時代だと思ってて」

 自分の姿勢を明確にする事がアピールの大事な要素。

酒井「イコール、お客さんを意識しているってことなのかなと思ってたりして。僕もこれから考えていかないとな、って」

 そういうお店で働いてみるとか?

酒井「無理です(笑)」

 でもそのお店で働いている女の子達は、自分に無いプロ意識(=お客さんを意識する)を持っている?

酒井「何が成功なのかも、今は分かんないですよね。自分のやりたい事、食えなくてもやってるのが成功かもしれないし」

 それは一番贅沢な生き方かもしれない。プロとアマチュアの境界線は、かくまで曖昧模糊としている。

酒井相一郎

 

●近頃の声優事情

 ちと話が堅くなったので、身近な話に戻しましょう。新型インフルエンザが猛威をふるう昨今、何かと健康には気を使っていると思いますが、ケアはどうしてます?

江上「よく会う知り合いが新型インフルエンザにかかっちゃったんですけど、何にもしなくて平気でしたね。強気でいきました(笑)」

 質問が台無しである。

江上「温かいものを飲むようにはしてますね。後はハチミツ飲んだり」

酒井「インフルエンザ対策はマスクですね。喉のケアは、冬は絶対ストールなりマフラーなりを巻く事にしております」

 結局のところ風邪・インフルエンザ対策には手洗い、うがい、喉を温める、の基本をきっちり守る事が大切らしい。

酒井「喉に注射を打ちに行った事あります」

 人間て、どこにでも注射を打てるものだ。

酒井「当日声が出なくて、先輩に教えてもらって、何だか分からない薬を……」

 声は出ました?

酒井「あんまり変わんなかったですけど。でも若干は出るようになりました」

 声が商売道具の方は様々な気の使い方をする。私の知っている範囲だと、炭酸系の飲み物は一切口にしないとか、蜜柑は刺激物だから食わないとか、同じ理由で味噌汁は飲まないなんてものある。極め付きは変声期には文字を極力読まない、なんてのも。
 ちなみにお二人が初めて声優という職業を意識した作品は何ですか?

江上「一番最初に好きになったのがデビルマンで、その次は、やっぱりエヴァンゲリヲンですよね」

 二作品の時代に大きな隔たりがある。

酒井「僕も完全にエヴァンゲリヲンですね。日本全土を巻き込んだアニメで凄ぇなって思いましたね」

 ちなみに筆者は『魔神英雄伝ワタル』でした。どうでもいいけれど。にしても『新世紀エヴァンゲリヲン』が今の声優業界に与えた影響は計り知れないのだなァと思ったのです。現実にエヴァあたりを起点として、ここ10年、声優の露出は加速度的に増してきている。

江上「もっと(自分を)認識して欲しいな、その為なら手段は選ばない、みたいな所はありますね。私はやっぱり歌が好きなので皆の前で歌ったりとかもしてみたいなと思いますし」

 一昔前、声優の顔は見てはいけないと言われていたけれど、今は。

江上「むしろ出たい」

 声優の活動を離れても外に出る仕事をしたい?漫画雑誌の水着グラビアを飾る人気声優も出て来ているけれど。

江上「歌は別として、芝居がからまないと嫌ですね。水着だけ〜とか、そういうのはちょっと。歳も歳だし(笑)」

酒井「声優として出たいなとは思いますね。バラエティとかラジオとか。アニメ声優としての雰囲気を持って出たいですね」

 一口に声優といっても世代ごとに違う職業と言えるかもしれない。
 反対にアイドルやお笑いの方々が近頃は声優をされる事も多い。それも話題作の主演ばかり。これには賛否両論ですが、声優から見てどう思います?

江上「俳優さんがやってるのは結構好きなんですよ。ジブリみたいな感じで。だけど話題集めだけの為にアイドルを突っ込むのとかは……、もう少し作品を大切にして欲しいなと思いますね」

 部外者が入ってくると仕事が無くなるという意識はあります?

酒井「ありつつ、でもその場に食い込んで行きたいって野心があるっていう現状で。タレントしか話題作れねぇ訳じゃねえぞ、声優だって、とは思いつつ頑張っていきたいです」

 以上の様にプロ未満が表舞台に現れたり、他業種の人が声優をやったり、あるいは定年がなかったり、若手声優は上にも下にも横にも競争相手がいるのである。その中で頭角を現すのは容易ではない。
 昔ならアニメと外国映画の吹き替えをやっている人が声優だった。けれどこれからは声優とは何者なのかを各々が考えなくてはならないのかもしれない。
 という訳で次回は声優が、俳優でも落語家でも活動弁士でもなくて声優である根拠を聞いてみたいと思います。

イエローテイル

録音ブースへの指示や映像とのミックスを行うミキシングコンソール。

 

 撮影・スズキマサミ