★演者に訊く 2010年1月
ゲスト
(史上最年長入門)落語家・立川長四楼


【全3回 其の2

 草食系男子なる言葉が昨年あたりから流行っております。恋愛等で女性との交流にガツガツしない男性の事だそうでありますが、インターネット上でアンケートを取った所、今年の新成人の五割が、自分は草食系男子だと認識しているそうなのです。
これ、どういうアンケートを取ったのでしょうか。「あなたは草食系男子だと思いますか?」という設問に対して○か×で答えさせたんでしょうか。恋愛に限らずガツガツした新成人はこんなアンケートに答えてくれない気がしますがね。
いずれにしても、やや意欲に欠ける若者が増えているのは事実のようで、近い将来、荒れる成人式を懐かしむ時が来るのかもしれません。
そんな現代でありますが、元気な男性はまだまだおります。今回お話を伺っている立川長四楼さんも、その内の一人でありましょう。47歳から始めた落語家生活の行方やいかに?

立川長四楼

●入門まで

突如落語家になった長四楼さんに対してご家族の反応は?

長四楼「家族の中でイジメにあってます(笑)」

 すっかり立場が弱くなってしまった?

長四楼「息子に、誰のお陰でここまで大きくなれたと思ってるんだ!って言うと『ママのお陰』って返ってきますからね。そしたら女房がね『前座の癖にでけぇ事言うな。あたし達に意見したかったら二ツ目になってから言ってよ』って(笑)」

 ご家族は前座という立場をよく理解してくれているんですね。

長四楼「それとこれとは別だろうと(笑)。やっぱ女房からすると先行き不安だっていうのがあるでしょうね」

それは当然ですね。息子さんは?

長四楼「自分の親父が藝人だっていう、友達にはない特別な感情の部分と、ウチの親父は変わってて短気だから、いつかやらかすんじゃないかっていう心配があるようですね。どっちかっていうと子供の方が心配してる」

 息子さんに心配されるくらい、色々やらかして来たんですか?

長四楼「ですね(笑)。祭り自体がけんか祭ですから。挨拶の代わりにみたいな」

 手が出るのはコミュニケーションの一環だそうです。
 では落語家になる宣言をした時の反応は?

長四楼「ついにきたね、と」

 予感はしていた。

長四楼「でもあなたの性格で……」

 もつの?みたいな。

長四楼「仰るとおりで」

立川長四楼
師匠の着替えも前座の仕事

 

 では、どうして談四楼師匠に入門されたんでしょうか?

長四楼「それは一番聞かれたくない質問なんです」

 それはどうして?

長四楼「一般の企業に就職する時に(面接で)、御社の社会的な意義に魅力を感じて、とか言ってるけど、元々はそんなに深い意味はなくて、ピンポイントではない訳です。ですから師匠に対してそういうワザとらしい事をいうと失礼かなと思うし、凄く自分を偽っているように思いますので」

 取材によっては「師匠の藝に感動して、この人しか居ないと思いました」とかいう答えを期待しているインタビューもあったりするのです。私も経験あり。

長四楼「ある時初めて師匠の落語を聴いて、『シャレのち曇り』(談四楼師匠の著作・ランダムハウス講談社文庫 刊)を拝読しました。自分の境遇に似たところが非常に多かった。勿論皆さん読んで、皆さん共感されるんでしょうけど、自分の場合、良い事も悪い事も含めて自分と重なり合っちゃったというか……」

 何がそんなに共感できたんでしょうか?

長四楼「自分が今までビジネスマンとして、もしかしたら一流と言われる企業に居たのかもしれません。その中で味わった悔しさ、挫折感、ひがみ根性、良かった事も含めて重なっちゃたんですよ。落語家さんというよりも談四楼師匠という人間に惹かれるものがあったんです」

 師匠の藝と文章、両方から衝撃を受けた。

長四楼「凄い失礼な言い方かもしれないですけど、演じてないんですよ、内面から出てくる藝のような気がするんですね。作ってないという。(観客としての)自分の感覚ですよ」

 作らない、自分を出すというのが理想の藝であると前回仰ってましたね。

長四楼「本を買って読んだら人間臭さが伝わってきて、こういう人なんだろうなと。僕は高卒で就職しましたから出世できませんでしたよ。後から来た連中、皆に越されましたよ。大卒という。しかも結構良い大学出てるのが来るんですよ。自分が実績出してるのに、それが他人の実績になっちゃう」

 能力が評価されない。

長四楼「昨日まで先輩だったのが、今日から呼び捨てだったりしたんです。この悔しさってのはねぇ……。そういう部分で何か勝手に師匠の本と、自分の悔しさっていうのが結びついて、もし許されるんであれば、この師匠から学びたいという気持ちでしたね」

立川長四楼
着物のたたみ方も師匠によって違うのだ


 少しマニアックな話を伺いますが、昭和の名人と言われるような方々のCDやテープは聴かれますか?

長四楼「かなり聴いてますね。素人の時に最初に感動したのは柳家小さん(やなぎやこさん)師匠ですね。あの自然体の話し方」

 五代目柳家小さん(1915〜2002)師匠は長四楼さんの師匠の師匠の、そのまた師匠にあたります。
 では長四楼さんの師匠の師匠、立川談志(たてかわだんし)師匠は意識の中でどんなポジションなのでしょう?

長四楼「雲の上じゃないですかね。色んな意味で。藝とか人間だとか、お立場も含めて。聖域なので触れたくないというか。笑点に出られていた頃のイメージが凄くあって、あとはビートたけしさんとの絡みとか。別世界の凄い人という感覚が今も取れません」

 

●理想と現実、やりたい事と出来る事

 落語界に入って、予想していた部分とそうでない部分があると思いますが。

長四楼「2:8ですね。予想していた通りだったのが2割、ちょっと違うなと思ったのが8割です」

 予想通りだった部分は?

長四楼「サラリーマン時代の常識が非常識だったりという事はあるだろうと。年下が兄(アニ)さんですから。そういう人達に迷惑かけちゃうんだろうな、親父みたいな弟弟子(おとうとでし)に兄さん先輩として振舞わなきゃいけないですから」

 常識の違いが予想通りだった訳ですね。では予想外だった部分は?

長四楼「まず自分の体力が落ちている事(笑)。前座なんで荷物を持ったり色々ありますわね。その時に重さは大丈夫なんですけれど、足が付いてこない。これは情けない。自分の意識と動きに誤差が生じるんです」

 それは体力的な衰えは会社員時代には感じなかった?

長四楼「サラリーマンの時は、会社で落ちるからタクシーだ、みたいな。あんまり身体を使わなくて良かったんですね」

 仕事で身体を使わないからスポーツクラブが儲かるという仕組みですね。


立川長四楼
打ち上げでは前座は一緒に楽しく飲み食いする間もなく、
お酌に料理の取り分けに、片付けに大忙しなのだ

 

長四楼「もう一つは細かい字が見えない。そこまで酷くは無いはずだったんだけどね、という。いかにパソコンというものが目に悪いかというのが良く分かりました」

 現代では落語家への入門は20代前半が平均だろう。当然ながら仕事内容も若者がやるのが前提となっている。

長四楼「予想外の第二点は、やっぱり甘かったなと思ってます。もっと自分の感性をアピールできるのかなと思ってました。与えられた15分の中で羽ばたいてやろう、光ってやろうと。そういうのが前座という立場の中で、敷居が高いなと感じてます」

 俺ならこうやるのに、とは客席で見ていると思う事だ。

長四楼「自分を表現したいというのが、どんな世界でもあるじゃないですか。会社の営業でもそうだと思うんですよ。自分を表現して買って頂ける。落語にそれを求めてる所があるんです」

 長四楼さんの表現したいものとは?

長四楼「落語にはスーパースターが登場しないじゃないですか。例えば『巨人の星』の星飛雄馬(ほしひゅうま)みたいな人は絶対登場しない。そこら辺にいる人を描写したり、青さ加減を描いたりしている。その部分を自分の感性でどうやって表現するか、伝えるかですね」

 あくまでも等身大であり、自然体である事が理想。

長四楼「まだまだ勉強不足ですし、テクニックの部分でも出来ないと思いますけれど、自分47歳なんで待ってる訳にもいかない。3年が2年、2年が1年となるような気持でやっていかないと。女房も子供もいますしね」

 今回は家族の話から始まって、家族の話で終わってみました。理想と現実の狭間で苦悩するのはプロであれば当然ある事です。今の長四楼さんの原動力の一つが家族ではないかと思うのです。というのも息子さんの話(本文には出てきませんが)をしている長四楼さんは、やはりどこか楽しそうだから。

 立川長四楼さんの最終回となる次回では、プロになりたてだからこそ感じるプロとアマチュアの違いや、今後の展望などを聞いていきたいと思います。

 

撮影・スズキマサミ