★裏方に訊く 2010年3月
ゲスト
「けん玉師・伊藤佑介」


【全3回 其の3

 沢尻某が2年半ぶりに芸能界復帰だそうで、会見の日の夕方はニュース番組でまでこぞって取り上げる狂騒ぶりでありました。
 と言う事は、依然として世間の関心が高いのでしょう。テレビ中心であろうと、ライブ中心であろうと芸能界はある意味非常にシンプルです。需要のある人が仕事にありつける。しかし供給は常にあふれておりますから、仕事をするためには需要を喚起しなければならない。結果として結婚も離婚も発表する、私生活の切り売りが生じてしまうのですが、その意味からいえばエリカ様なるキャラクターは非常にうまい訳です。あとはご本人がそれを制御しきれるかが見物でありますね。
 さて、需要を喚起したという意味では、今回お話を伺っている伊藤さん程の方はそうそう居ない事は請け合いです。なにしろけん玉師という職業を自らの手で生み出し、軌道に乗せてしまったのですから。あるいは起業家の方々こそ、伊藤さんから学ぶべき所があるのかもしれません。私は藝人なので思いつきで言っていますが、いかがでしょう?

けん玉師・伊藤佑介

 

●けん玉の発祥は

 伊藤さんは海外公演も経験されていますが、反応はいかがでしたか?

伊藤「ショーよりも、持って貰った体験が盛りあったなあ、というのはありましたね。けんに挿すのと、皿に乗せるのとどっちが難しいかで言えば挿す方が難しいのは(外国人でも)何となく分かるんです」

 見た目からして。

伊藤「(挿すほうが)どれだけ難しいかは、やっぱり持たないと分からないんですよね」

 難易度の基準が通じない。

伊藤「けん玉から糸を外して、(ジャグリングの技術で)玉3つとかでやりはじめると、オォーみたいな。それはジャグリングの技術であって、けん玉で盛り上げている訳ではないので」

 並のジャグラーはけん玉では出来ないですけれどね。

伊藤「けん玉のショーとしては、まだまだ海外で通用するレベルまでには到ってないかな、これからかなという気もします」

 けん玉を世界中に浸透させる役目も担っている。

伊藤「ショーの後にワークショップをやると凄い食い付きが良くて、けん玉自体は楽しんで頂けましたね」

 そもそもけん玉って、日本独自の物なんでしょうか?

伊藤「はっきりした事は分からないんですけれど、中世のフランスで、酒の席で貴族の遊びとして始まったのが発祥らしくて、ワイングラスに毛糸をつけて、グラスの中に入れる遊びだったんです」

 いかにも酒席で偶然生まれそうな遊び。

伊藤「フランスにビルボケ(Bilboquet)というけん玉があるんですよね。大皿と小皿が無い状態のけん玉なんですよ」

 十字ではなく、三角形なんですね。日本のけん玉に輪をかけてシンプルな構造。

伊藤「それが、けん玉協会が発表してるのではシルクロードを渡り、日本に来た、みたいな。劇的に発表されていますが」

 シルクロードってのは何でも渡しますね。

伊藤「それまではビルボケの形だったんですけど、日本で鼓を参考にして今の形が生まれたんです。それが100年位前だったと思うんですけれど」

 けん玉が今の形になったのはつい最近の事なのである。時代劇で見たことあるような気もするが、あれはインチキだったのか。
 それ以外の国にもけん玉風の遊びはあるんですか?

伊藤「ありますね。私も何個か海外のけん玉持ってますけど」

 海外でけん玉を探したりは?

伊藤「しょっちゅうしてます(笑)」

 発見した時に感動は……。

伊藤「あります、あります。値段見ずに買いますね」

 凄い高いけん玉もあったんですか?

伊藤「いや、今までは無かったです(笑)。1〜2万くらいのはありますけど」

 各国のけん玉を見ている伊藤さんにとって、けん玉の定義とは?

伊藤「自分が直感的にけん玉だと思ったものがけん玉です。ショーの時に色んなけん玉を使うんですよ。人によっては『それはけん玉じゃないだろ』って言うかもしれないんですけど、私の中でこれがけん玉だと思えればけん玉ですね」

けん玉師・伊藤佑介



 けん玉の名器ってあるんでしょうか?

伊藤「夢元(むげん)ですね」

 銘柄の名前ですね。

伊藤「1,200円位で売り出されたんですけど、それまで1,000円以上した競技用けん玉が無かったんですよ」

 平均よりはだいぶ高い。

伊藤「いざ売り出されたら売れたんですね。物が良かったから」

 今では製造中止との事。

伊藤「ネットオークションで10000円位まで値が上がっちゃうんですよ」

 他のけん玉とはどこが違うんでしょうか?

伊藤「正直な所を言うと私は製造者と仲がいいから夢元が好きなんですよね。惚れ込んでしまって。他の方は純粋に(玉が)止まり易いとは言いますね。玉の塗りとサイズのバランスで吸い付くように止まるっていう話で」

 海外の方がネットで調べて欲しがったりも?

伊藤「もう凄いですね。『夢元はどこで買えますか?』っていうメールが多いんですよ。私も何本も持ってたんで、売ったら凄い事になるなって(笑)」

 けん玉長者。

伊藤「さすがにそんな事はしたくないですけど。けん玉を売って活動するのがけん玉師ではないので」

 現在、世界でけん玉といえば日本のけん玉なんですね。けん玉は今の形が完成形ですか?

伊藤「そうですね。これが一番バランスが取れた形ですね」
 
 技の為に別の形のけん玉を作ったり、お土産用で独創的な形のけん玉もあるそうです。
 
伊藤「木のぬくもりであったり、音であったりがけん玉の良さですね。けん玉が昔からの遊びっていうのは、木だからこそ続いてきたと思うんです」

けん玉師・伊藤佑介



●けん玉の未来

 けん玉と共に生きている伊藤さん。けん玉から離れる瞬間は?

伊藤「旅行に行くのが嫌いだったんですよ。2泊3日だと絶対に1日はけん玉から離れるじゃないですか」

 普通、日常から離れる為に旅行に行きますからね。

伊藤「1泊2日以外は考えられなかったんですけど、(結婚して)妻と旅行する様になってから、意外といいもんだなって。他の世界を純粋に楽しむのも」

 本当にけん玉純正培養だったんですね。

伊藤「今は1年に1回、必ず2泊3日以上の旅行をしようと。その期間はけん玉から完全に離れても良いのかなって」

 好きな事を仕事にした人は趣味が無くて困るパターンがありますが、伊藤さんはその辺りいかがですか?

伊藤「ゲームは好きですね。移動時間が長いのでDSは結構」

 Wiiでけん玉のソフトがあっても良いですよね。

伊藤「けん玉教室の生徒に言われました。小さい頃にけん玉のRPGを1人で考えた事ありますけど(笑)」

 Wiiスポーツでけん玉とかいかがでしょうか、任天堂さん。
 違った分野から刺激を受けたりは?

伊藤「けん玉師になろうとしていた頃なんかは、言葉に影響を受けまして、相田みつをさんの言葉で『一生燃焼 一生感動 一生不悟』っていう言葉がありまして、これはまさしく自分のけん玉だなって」

 言葉を扱わない藝だからこそ、言葉から感じる物がある。 
 では伊藤さんにとってライバルは?

伊藤「よくパフォーマンスコンテストみたいなのに出てたんですよ。何が何でも負けたくなくて。ジャグリングでも、クラウンでも、ヨーヨーでもそうですけど」

 パフォーマンスの異種格闘技。

伊藤「そういうコンテストで優勝した時もあったんですよね。やっぱり、けん玉一番って思う時期もあったんです」

 ヨーヨーなにするものぞ、と。

伊藤「どの分野でも良さがあるじゃないですか。その良さは比べ物にならないじゃないですか。あまりこだわらなくなりましたね。むしろ他のジャンルから学べるものがあったら沢山学びたいと思いますし」

けん玉師・伊藤佑介



 
あらゆる物を貪欲にけん玉に取り込んでいる伊藤さん。では今後、どんな事をしたいですか?

伊藤「けん玉師を職業として確立したいですね」

 けん玉師が職業になる為には、何が必要ですか?

伊藤「1人で終わっては職業ではないので、伝えていくというのも役割だと思います。生徒ではなく弟子ですね」

 伊藤さんの様に、個人で始める人も出てくるかもしれません。

伊藤「やろうとしている人は何人もいるんですね。生活をしている人がプロというのであれば、アマチュアとプロの差を解っていない人が多くて」

 セミプロを自称する人はどの分野にも思いのほか多い。

伊藤「パフォーマーの中では学生さんが安く使えるからって、こちらがやるべき仕事を持っていっちゃうとか、あると思うんですよね」

 アマチュアが安く使われるのと、プロが交渉の結果安く出るのとは意味が違う。

伊藤「(プロとアマの)違いをはっきり出来た上でどんどん広まっていくのは全く問題ないですけど」

 国内外を問わず、けん玉が広まっている実感はありますか?

伊藤「ネットが普及して海外の方が向こうからけん玉を見つけて、輸入してとかが多いんです。もうどんどん広がっていってますね」

 伝播力は凄い訳ですね。

伊藤「これは、けん玉の将来は明るいと」

 

けん玉師・伊藤佑介

明るいけん玉の未来を切り開く子供達

 

 今まで無かったけん玉師という職業を生み出したのが伊藤さんです。試行錯誤の連続だったでしょうし、これからもそうだろうと思うのです。けれどそこにプロとは何か、という答えもあるような気がしました。
 世界にけん玉を発信し続ける伊藤さんにとって、地球は大きなけん玉の玉なのかもしれません。

 

公演写真 提供・伊藤佑介
撮影・スズキマサミ
撮影協力・武蔵野けん玉クラブ