★演者に訊く 2011年6月
ゲスト「唄うアコーディオン弾き・遠峰あこ


【全3回 其の3

 皆さんの中に、CDを買ったことが無いという方はいらっしゃいますでしょうか?藝能往來を御覧頂いている方だと、そういう方は居ないかな、と思っていますが、これから10年もすると音楽へ興味があってもCDというメディアで音楽を買ったことが無い、なんて世代が出てくる事でしょう。
 楽しみなような、怖いような。
 さて、現在CDで発売されている音楽(ポップスだとかロックだとか)は1曲が3〜6分に収まるものがほとんどです。これはなぜかというと、その昔のレコードが片面3分、両面合わせて6分の再生時間だったからなんですね。CDになっても、いまだに数十年前の慣習が何となく生きているというのも愉快な話です。これからダウンロード販売になれば、事実上時間制限はなくなりますが、はたしてシングル曲の妥当な長さは変わるのでしょうか?
 反対にいえば、レコード発生以前に作られた長唄や民謡はべらぼうに長い曲があったりします。産業と藝能も密接に関わっているというお話でした。

 

 

「縁がどんどんつながってて、
途切れない感じがして」

 有線放送等で流れてくるような、最近の曲で遠峰さんの心に留まったものはありますか?

遠峰「あんまないかな。聞いてないっていうのもあるかもしれないけど。
でも学生の時とかは高田渡さんとか、浅川マキさんとかを追っかけてましたよ」

 高校時代にジャニーズ追っかけてるような人は、あんまりこういう事やらないんである。

遠峰「どこに行っても一番若い感じだった。浅川マキさんのライブに行った時も、おじさんたちに『お嬢ちゃんが生まれる前から、俺はマキを聴いていた』とか説教されるんですよ(笑)」

 唄以外の分野から出演以来は?

遠峰「お芝居も何回か出たことありますよ。ギター弾かれる女優さんと2人で歌謡漫才師の役で、うぐいす姉妹っていうの。すごく面白かったんですけど、やってみてびっくり。お芝居の人って凄い練習するんですよね(笑)」

 藝人の練習と、演劇の練習はちょっと毛色が違いますね。
 では、遠峰さんが今後やってみたい事は?

遠峰「凄いロックな人ともやりたいし、逆に伝統藝能の方ともやりたいし、落語家さんともご一緒したいし。色んな切り口で、音楽とか唄とか演芸系とか、色んな人と一緒にやりたいです」

 それを実現するのは、やはりつながりでしょうか?

遠峰「アコーディオンで唄い始めてからは、いろんな縁がどんどんつながって、途切れないで、綱渡りみたいにどんどんいろんなところに連れてってもらってるんですよ。ほんとにありがたいと思っています。
私、友達とか少ないタイプで、だからそういう事が経験したことがなくて(笑)」

遠峰あこ

「自分がこう唄いたいと思ったら、
それも正しいんじゃないかなって」

 民謡について伺いたいのですが、民謡とはどうやって習うものなのでしょうか?

遠峰「もうね、先生が三味線を弾いてくれて唄ってくれるんですよ。それを丸ごと覚えて唄う。基本の発声練習とかも無くて、コブシとかも、ここは3個よ、とか凄い決まってるんですよ」

 流派が幾つもある?

遠峰「山ほど流派があるんです。この先生の唄が良いなと思ったら、その先生の所に入って全部同じように唄うんです。民謡界ではアレンジとか駄目なんですよ。よっぽど上手くなって、この人なら、みたいな人にならないと自分の味とか出しちゃ駄目って言われるんです」
 
 でも遠峰さんはアレンジを加えた民謡をされてますよね。

遠峰「そうですね。もっとこういう風にしたいなっていう気持ちもあって、アレンジしたりして。それで民謡界だけじゃなくて自分でやりたくなっちゃった、みたいなものがありますね」

 では民謡界や遠峰さんの師匠は、遠峰さんをどう見ているんでしょう?

遠峰「変な事やってる人。
困った弟子みたいな(笑)。今はお稽古には行ってないんですけど、また戻れる時は戻りたいですね」

 民謡を習ったことで、それまでの唄い方とは表現が変わりましたか?

遠峰「ぜんぜん違う。民謡って、口は開けなくても口の中は開けるんですよ。それを知ったら、習う前までは何て薄っぺらに唄ってたんだろうと思って。今もまだまだ修行中ですが、民謡を習ったら民謡以外の事も凄く変わったと思います」

 幾つも流派があるという事は、同じ民謡でも幾つも唄い方がある?

遠峰「流派の数だけあるんじゃないでしょうか。唄い方は、それもあるよね、これもあるよね、っていう感じで良いと思うんですけどね。
民謡って誰のものとかでもないと思うし、一般大衆の唄だと思うんですよ。自分がこう唄いたいと思ったら、それも正しいんじゃないかなって。
もちろん民謡は土地に根付いたものだから、土地のものだと思うんだけど、それを尊重しつつも自分なりにどんどん唄って良いんじゃないかな」

 遠峰さんにとっては、全部が正しい民謡。
とはいえ自由な表現がやや難しい世界でもある。

遠峰「自分で民謡作りましたって言ったら、『そんなのちゃんと民謡やってる人に失礼だ!』って言われたことがあるんです。
そのとき、ちゃんと民謡やってるって何だろうな?って。
だって昔の人は田植えとかしながら唄ってたわけで、そういう人達みんなちゃんと民謡習ってたのかなぁ?と思う。
民謡好き!今唄いたい!作っちゃった!っていう自然発生なものだと思ったり」

 民謡を定義付けすると?

遠峰「それは難しいですね(笑)。
その土地に根付いてて、みんなの唄である……、それを言い出すと、自分で民謡作りましたっていうのは変だなって事になっちゃんだけど(笑)。
落語の新作と古典みたいに、どっちも落語でしょ?そういう感じだと良いなって」

 業界内に新しい民謡を作る動きはあるんでしょうか?

遠峰「沖縄は、それが普通だそうですよ。毎週、新民謡のランキングとかが出来ちゃうくらいに、どんどん新しい民謡が出来てます。
そういうのいいなーと思います。」

 遠峰オリジナル民謡を、他の唄い手さんが継承する、なんて事はありますか?

遠峰「平成の演歌師、岡大介さんが『横濱ほーらい節』を唄ってくれてます。
唄ってくれる方が増えたらすごくうれしいですね」
 
 その為にも、幅広く民謡が唄われるようになると良いですね。

遠峰「私も最近は民謡をやる人みたいな感じで言われてるんですけど、民謡もやる人っていう感じで。民謡だけ特別に思ってないんで。好きな音楽の中のひとつ。自分の曲も、民謡も、誰かの曲も、昔の日本の曲も全部同じ」

 オペラの曲も唄われていますね。

遠峰「私、日本語ばっかやるんですよ。元の詞を日本語に訳したりとか、アンデス民謡に日本語の歌詞を乗っけたりとか。日本語で唄いたいんです。外国の言葉だとお客さんに意味が分かんないから。日本語が好きなんだと思います」

遠峰あこ

 

 インタビュー中、遠峰さんは自分の作った民謡が民謡じゃないかもしれない、と笑いながら自問自答していました。
 土地に根付いているのが民謡ならば、自分の民謡とは、と。
 しかし唄が新しかろうが古かろうが、それ以前に遠峰あこという存在が横浜に、そして日本にしっかりと根付いているのです。遠峰さんが「これは民謡だ」と思って唄えば、それはもう民謡なのではないでしょうか。
 そういえば遠峰さんは、人のつながりを綱に喩えておられました。ちょっと考えてみると、五線譜というのは、幾筋も張られた綱のようではありませんか。
 これからも遠峰さんが縁の五線譜で生み出してゆくであろう、新しい民謡の世界に期待しましょう。

 

 


ロック酒場 ボーダーライン

今回取材にご協力頂いたロック酒場 ボーダーライン」
団塊世代〜保育園児まで ゆるく音楽を楽しむお店です。

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OPEN 18:00 CLOSE 26:00
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撮影・スズキマサミ