★演者に訊く 2012年4月
ゲスト編みメーター・やたみほ」


【全2回 其の2

 諦めなければ夢は必ず叶う、なんて言ったりします。でも現実には叶わない夢の何と多い事か。
 とあるアニメ監督/作画監督の方が「夢は必ず叶うとか、正義は必ず勝つ、という嘘を大人の責任で吐く事が大事なんだ」と言っていました。
 アニメーションは命の無い物に命を吹き込む作業ですが、それは絵や粘土だけでなく、夢にも命を吹き込む作業なのかもしれません。

 日本を代表するアニメーション作家である山村浩二さんに弟子入りしたやたさんですが、さてその後は?

       編みメーター・やたみほ

 

「手間隙掛かる楽しみを覚えてしまって」

 弟子として先生のそばにいる事で、やたさんの作品にはどんな影響があったのでしょうか?

やた「『私は魚』の後は、四季を感じられる作品が作りたいなあと思って、そのままのタイトルで『SHI-KI』(2000年)というのを作ったんですけど、それはちょっとストーリー性がある。でもデジタルなので『編み物というよいはデジタル作品だね』って言われる事があって、その次に『KNIT-THE-CAT』(2001年)っていうのを作って、それはああいうキャラクターとかお話が作りたくて作ったんです。
 そこまではデジタルで作ってて、それだと編み物の特性が分からないし、じゃあストップモーションのみで合成無しで作ろうと思ったのが『Life Story』(2004年)だったんです」

 デジタルに比べれば当然手間は掛かりますね?

やた「そうですね。でも逆にそれを作る事で手間隙掛かる楽しみを覚えてしまって(笑)。パラパラ漫画みたく編み絵を変える手法を思いついて。
 いつかは人が着ているセーターの絵柄が変わるとかまで出来たら良いなと思っています。実際の人が着ているセーターの絵柄が変わったら面白いですよね」

 ひとコマづつ役者さんがセーターを着ては脱ぎ、脱いでは着て……。

やた「『アーティスト』がアカデミー賞で受賞しましたけど、だんだん最近アナログな感じのものが重要視されてきたのもあるので」

編みメーション

 作品制作のペースは?

やた「十年くらい変わってないんですけど、一年に一本、仕事は関係なく自主制作で作るというのは決めてます。出産とか何かで間が開くことはあるんですけど」

 自主制作以外の作品というと?

やた「最初は東急の電車の中にモニターが付き始めた頃に、モニターで流す物として作りました。車内のマナーを守りましょうというので『車内マナー劇場』というのを作りました。まだ広告も何も無い時だったので、永遠に私のが流れていて〈笑〉。二〜三年……三作作りましたね。それがきっかけで割と知って頂くようになりましたね。
 電車広告で言うと山手線の中の警視庁のですね。あとは『SMAP×SMAP』っていう番組でタイトルのブリッジアニメーションが流れて、それを作った人はこういう人ですよっていうのが前の日の夜に『BABY SMAP』で放送されました」

 編み物に飽きたりはしないんですか?

やた「同じ物をひたすら編んでると流石に。
 上手にお仕事されてる方は、そこが違うと思うんです。分業して、手伝って貰って。
 前も言われた事があるんです『編みメーションを広げたければ、沢山人を雇って、どんどん作っていかなきゃ駄目だよ』って。でも達成感があるので、決して人に手伝って貰いたくないというか(笑)。ちょっとストイックな所があるのかもしれませんね」

 編みメーション作家志望の方が現われたりはしないんですか?

やた「いないですね、そういえば。
 編みメーションていう言葉は商標を取って皆に創始者だね、ってい言われるんですけど、誰も、何も、続かないですね(笑)。
 コマ撮りで編みぐるみを動かすという作品ならあるんですけど。パラパラ漫画みたく編み絵を動かすという私の特性をこれからもやっていきたいと思いますけど。まだ私も確立されていないので」

 

編みメーション

編み目をコマに見立てた設計図

 

「アーティスティックな作品よりは、
お友達が見て面白いねって
思ってもらえる作品が良いのかなって」

 やたさんは作家であると同時に、お母さんでもある訳ですが、このふたつをどうやって両立させているのでしょうか?

やた「子供がいない時には一切家事をしない。そこを全て自分の時間に充てて、子供が帰ってきたら手伝わせながら一緒にやるとか(笑)。だから朝から夕飯も決めてあるんですよね、これでああすれば十五分でできるや、とか」

 その方が親子の時間が濃密でいいかもしれませんね。ちなみにお子さんは編みメーションに対してどんな反応なんですか?

やた「上の子は自分の声をアテて貰ったりしたので『僕だ、僕だ』って言ってますけどね。どうも思うか聞くと、悪い事は言わないので気持ちよく。一番最初の視聴者なので」

編みメーション

編んだ小物で釣りゲーム

 

 教育に影響はあると思いますか?

やた「あると思いますね。いつも作りかけのものがそばにあるので、絵を描くとか、物を作るという事は割りと積極的にやりたがる子じゃないかなと思います。
 良いか悪いかは分からないですけれど」

 学生時代は児童文学を専門にされて、現在はお子さんが二人というのは、編みメーションの作風にも関係性が出てくるんでしょうか?

やた「児童文化学科で子供向けの物をずっと勉強しているので、そう思わなくて作ってもなぜか子供を対象した作品になっちゃいますね。
 2009年の『Kni-Train』(今回の記事冒頭の動画です)は2〜3歳の子どもを対象に、親子で絵本感覚で楽しめるものと思って作ったんです。
 内容は、お母さんに相手をしてもらえない男の子が汽車で遊んでいると、毛糸が出てきて線路が編まれて編み物の世界に入って行って、色々な動物と汽車に乗って編み世界を旅をするっていう物語です。
この作品は無声映画『太郎さんの汽車』に影響を受けて作ったんですよ」

 無声映画に影響を受けたとは有り難い(笑)
 では今後、作ってみたい作品は?

やた「個人作家で海外でも賞を取ってる人は本当に凄いなと思いますし、もちろん私も子供向けのみんなに楽しんで貰える作品を作りたいと思いつつ、海外で賞をとれるような作品も作りたいと思ってるので」

 子供向けと賞は両立しないものなのでしょうか?

やた「それを分けなくても自然に作れたら良いですよね。子供の物だからって意識をしないで作って、子供が楽しめる物もあるので」

 子供に向けた作品として作られている編みメーションですが、全体共通するテーマはあるのでしょうか?

やた「周りに個人作家のアニメーションに興味が無い、というか見た事がないという方が多いので、アーティスティックな、分からないわ、っていう作品よりは、お友達が見て面白いねって思ってもらえる作品が良いのかなって思っていますね」

 大人も子供も楽しめるのが、やたみほ作品に一貫した世界観なんですね。

詩とお話の世界〜ニットとクレヨンアート展〜

編み物のワークショップ

 

やた「五月には親子向けの展示もやるんです。一緒に展示をやる方は、ベトナムの手仕事の洋服や雑貨を日本で販売されているので、お母さんたちは洋服を見ながら、子供たちは私が作ったおもちゃで遊んだり編みメーションを見てもらうスペースに出来たらと思うんです」

 展示会のタイトルは?

やた「AERU-AMIMATION(アエル‐編みメーション)というんですけど、AERUというのはベトナムの雑貨を日本で販売する方が、その名前でやってらして、Aが繋がるのでその名前にしました」

 そこでは編みメーションの新作が見られる?

やた「新作は『赤い毛糸と青い毛糸』というタイトルで、児童演劇の役者さん篠塚浩さんが原作です。
『Kni-Train』のように全体がカラフルな編み物の世界と違って背景は手描き。登場するのも毛糸と猫というシンプルで分かりやすいものになっています。
 これは、片岡さんのイベント『代官山の宵をチャップリンと共に』でチャップリンの無声映画を拝見したときに、笑えるドタバタコメディが作りたいなと思ったのがきっかけなんですよ」

 また無声映画に触発されたとは嬉しい。

やた「毛糸の編まれたりほどけたりする特徴が生かして、動きで子供を笑わせられるものが作りたい」と考えたんです。
 原作の篠塚さんはご夫婦で『どろんこ座』という児童演劇をなさっていて、なかなかお話が浮かばなかったので相談をしたところ、すぐに楽しいお話を考えてくださいました。
 セーターになることを夢見る赤い毛糸と青い毛糸、それと毛糸が苦手な猫の物語です。
 せっかく役者さんが一緒に考えて下さった物語ですし、『どろんこ座』と一緒にやれたらって考えて、子どもたちがお話の世界に入りやすいように、導入はお芝居で映像に続き、最後は歌で締めくくるというものにしました」

 今までにない公演になりそうですね。

やた「今回の展示会以外でも色んな形で上演して、その都度違ったイメージの『赤い毛糸と青い毛糸』を広げていけたら楽しいなって思っています」

 

ここ一年間、絆だとか繋がりだとか言った言葉が氾濫しています。その言葉を目にするとイラッとするなんて方もいます。けれど本来、繋がりなんてのは大仰な物ではないのだろうと思うのです。やたみほさんの編みメーションは人と人が繋がって生まれ、見た人と診た人が繋がってゆく作品に見えます。

一本の毛糸もよくよく見ると無数の繊維が折り重なって出来ています。我々も幾つもの繋がりが折り重なって一人の人間になるのではないでしょうか。

ともあれ百聞は一見にしかず、まずは展示会に足を運んでいただき、編みメーションの世界に身をゆだねてみようではありませんか。


AERU-AMIMATION〜服と雑貨と編みメーション

AERU-AMIMATION〜服と雑貨と編みメーション
5月18〜20日
代官山SPACE-K http://www.space-k.info/

ベトナムの服や雑貨、手編みのおもちゃの販売をします。

どろんこ座&やたみほ編みメーション
「赤い毛糸と青い毛糸」 お芝居つき上映会

19日、20日 14:00〜15:00
※どろんこ座(篠塚浩・日南田淳子 http://www.choropi.net/
のお芝居&歌と共に編みメーションをご覧いただきます。
入場無料。