★演者に訊く 2013年11月
ゲストソロコメディー・小心ズ(ヤノミ)


【全3回 其の2

 日本人の藝人さんでも海外で活躍されてる方々も多く、この藝能往來のインタビュアーでもある活動写真弁士の片岡一朗氏も先日までミシガン大学からの招聘を受け半年滞在し、アメリカ各地で公演を行ってました。三味線小唄の宮澤やすみさんはドイツで、大道芸では江戸太神楽の仙若さんはヨーロッパやシンガポールの、けん玉師の伊藤さんもシンガポールのフェスティバルに参加されています。唄うアコーデオン弾きの遠峰あこさんも初の海外進出を果たし、to R mansion さんは今年もフランスの演劇祭にされるそうですし、サイレント映画ピアニストの柳下さんがクロアチアの映画祭で、鳴り止まないスタンディングオベーションを浴びたのも記憶に新しいところです。

                2011年3月4日 パルテノン多摩小ホール

 

「もうこんなチャンス一生無い!
一人でやる! って」

 順風満帆な活動のように思えますが。

ヤノミ「その5ヶ月のツアーに向けて、色々海外の経験で得たことや、磨いてきたものや、新ネタも一杯詰め込んで、小心ズの集大成になるような1時間の演目を作ろうと。
が、ところがどっこい、そのハイペースに相方が付いて来れず……、2010年の年明けに、もう無理、辞めたい、って言われて」

 確かに展開は良い意味で早過ぎますからね。

ヤノミ「話し合いもしましたけど、精神的にも肉体的にも限界かな、と」

 小心ズ解散! にはしなかった。

ヤノミ「私は辞めてませんからね。それにその年の夏には北米5ヶ月ツアーが、小心ズの名前で決まってましたから、ツアーをキャンセルすることは、アンドリューにも申し訳ないし、向こうで楽しみにしてくれてる人達の信頼を裏切ることになるし、もう小心ズの名前で認知されてるので名前を変えることも出来ないし、もうこんなチャンス一生無い! 一人でやる! って」

            二人時代の小心ズ、ラストライブ。(画像提供 小心ズ)

 

 でも小心ズは二人組で白塗りメイド、っていうキャラクターがあったじゃないですか。

ヤノミ「一人でやっても二人でやってたときの小心ズのテイストは変わらないし変えないつもりだし、それは何とかなると。
で、一人でやる新しい演目はとにかく幸せな作品、みんなが観て幸せを感じる作品を作ろうって。本人はこれからって時に一人になってしまって気分はどん底なわけですよ。だからよけいにそう思って。
幸せって何だろうって考えたら、頭に花が咲くって言い方あるじゃないですか、それだ! って思って」

 あぁ、ある種幸せな事を表現するときに使いますね……(苦笑)

ヤノミ「一人暮らしの幸せなおばちゃん、ってのがまず浮かんで、塩沢トキ、黒柳徹子、小森のおばちゃま、みたいなイメージで、一人で生きてるのにやたら機嫌が良くてパワーがあって、エンターティンメントな感じがするっていう素敵な感じの」

 確かに衣装も頭に花が咲いてるし、トンボのメガネだし。衣装の色使いからメイクに至るまで、見るからにパワーは感じます。

ヤノミ「それにもともとしゃっくりが好きだったんで(笑)、それも入れて『ミスしゃっくりの幸せな一日』っていう作品を作ったんですよ。
そのミスしゃっくりは、ずっと一人暮らしで退屈だから、自分自身を楽しませることを色々やってるんですね。はたから見れば変な人かもしれないけど、でもそれはどっちが幸せなのかわからないじゃん、自分自身は幸せかもしれないし、それを見て幸せになる人もいるじゃないかって」

 でもアメリカ5ヶ月ツアーまでは超突貫作業ですね。

ヤノミ「もう出発まで2ヶ月しか無い状態だったし、アメリカに行く前にシンガポールの演劇フェスにも呼ばれてて、一人になりました、演目変わりました、って連絡したら、すぐ写真とビデオを送ってって」

 うわっ……。

ヤノミ「その時にはまだ衣装も出来てなかったし(苦笑)。だからもうとにかく急いで準備して、ドタバタでシンガポール行ったら、高級ホテルの大っきな部屋に泊めて貰って、お世話係までいるっていう(笑)」

 凄い待遇! シンガポールにはどのくらい滞在?

ヤノミ「5日間いて、1日3ステージを3日間ですね。
それでシンガポールから、成田経由でそのままアメリカ」

 すいません、私未だ飛行機に乗ったことも海外に行ったこともないので、その移動がそれだけ大変かは想像を絶するんですが……。

ヤノミ「(笑)大変、時差もあるし、飛行機の中で寝られないし、腰が悪いんで辛いし、移動はとにかく苦手」

                 2011年3月4日 パルテノン多摩小ホール         


 

「動員がなければ打ち切りのところも出たり、
凄いシビアなんです

 そのフリンジに参加する仕組みについてお聞きしたいんですが。

ヤノミ「とりあえずそのツアーに関してはアンドリューが各フリンジの事務局に抽選の応募をしてくれたり、エントリーの手続きはみんなやってくれたんですね。
参加アーティストはエントリー料の5〜8万円位を払って、宣伝に使うポスターやチラシを用意する。交通費は自分持ち。で、事務局は会場費と音響や照明のスタッフの費用、パンフレットなんかの広告費を持ってくれて、入場料はすべてアーティスト側に入るんです。
だからお客さんさえ入れば黒字になります。これがベーシックなシステムです」

 会場はどんな所ですか? 日本の小劇場みたいな感じですか。

ヤノミ「そういう所もあれば、でっかい劇場もあるし、テントも教会もあるし、会場は事務局が決めるので選べない。野外だと暗転も出来ないし音も悪いし暑いし凄い大変」

 参加カンパニーはどのくらいになるんですか?

ヤノミ「80〜100くらい、大きいところで300くらいです」

 公演期間は?

ヤノミ「長いところで2週間で7公演くらい」

 基本的にお客さんはプログラムなりチラシを見て、面白そうだ行こう、ってなるわけですよね。

ヤノミ「そうですね。あとは新聞やネットでの劇評なんかで噂になって観に来たり。
参加カンパニーの数が多くなれば必然的に、凄く入るところとガラガラのところの差が激しくなります。だから打ち切りのところも出たり、凄いシビアなんです。
あとスタッフもこっちは選べないんで、音響や照明の当たり外れがあるんですよ。外れると作品がめちゃめちゃになることありますからね」

 シビアなだけでなく運も必要ですな。

ヤノミ「オーランドのフリンジでまったく予想してなかったけど2つ賞を貰ったんですよ。人生で初めて演劇の賞と名の付くものを貰った(笑)。
会場がちょっと大きめの会場だったんで徐々に評判を聞いてお客さんは入ったんだけどソールドアウトにはならなかったし」

 それはどんな賞?

ヤノミ「フリンジクラッシュっていう賞で、恋に落ちる。ハマる、虜になる、とかそういう意味の賞。その年の一番人気のパフォーマーに贈られる感じの賞。
もうひとつはベストメイク&コスチュームアワードっていう賞。
周りのアーティスト達も喜んでくれて、凄い盛り上がって」

 観客もアーティスト達も小心ズに恋した。

ヤノミ「その後にフリンジで知り合ったアーティストの紹介で、ニューヨークの小劇場の公演に出して貰えることになったんですね。
それで宣伝のつもりでマンハッタンのテレビ局が毎朝オープンスペースで公開放送をしてるから、そこに衣装着てメイクして映り込みに行ったんですよ。運が良ければインタビューとかされるかも、って現地の友達に教えられて」

 『ズームイン朝!』みたいなやつですね。

ヤノミ「朝5時のニューヨークの地下鉄にそのカッコで乗り込みましたよ。もう周りがチラチラ観るしね。そしたらデキる感じのキャリアウーマンが “私の朝を楽しくしてくれてありがとう” って声かけてくれて、カッコイイーー!って(笑)」

 カッコイイーー!

ヤノミ「そしたら運良くか運悪くか、その日その放送にジャスティン・ビーバーっていう世界的アイドルがゲストで出てて、何千何万っていうファンの人だかり(苦笑)。ついでだからもみくちゃになりながら写真撮ってきた」

              早朝のマンハッタン、小心ズ出没。(画像提供 小心ズ)       

 

ヤノミ「で、時間空いたからMOMA(ニューヨーク近代美術館)に行ったんですよ」

 まさかコスチュームのまんまで?

ヤノミ「もちろん(笑)。そしたらMOMAの受付の人も案内の人も “素晴らしい衣装ね、ようこそMOMAへ” って。黒人のでっかい警備員も、親指出してグーサイン。さすがMOMA(笑)」

 さすがニューヨーク(笑)

ヤノミ「MOMAって館内写真撮影OKなんですよ(フラッシュ厳禁)。だから観に来てたお客さんが、名画の絵をバックに撮らせてくれとか(笑)。
そしたらMOMAのオフィシャルカメラマンが声をかけてきて、外で写真を撮らせてくれませんか? って。それで15分くらい撮影してちょっと話をしたら、MOMAのゴッホの写真集とか撮ってて、彼の奥さんは日本人で日本も大好きで、って人だったんです。そして “次にまたMOMAに来ることがあったら、その時にはボクの名前言ってくれれば、君はもうフリーパスで入れるからね” って」

 凄い!

ヤノミ「そのカメラマン、ジョン君とは帰国してもフェイスブックとかでやりとりしてて、去年ツアーで行ったときに10日間泊めて貰った」

 袖振り合うも多生の縁、どころじゃないですね。
 そのツアーはどれくらいのフリンジをまわったんでしょう?

ヤノミ「3ヵ国11都市ですね。フリンジを廻って公演をするアーティストもいるんですが、ここまでの数を廻る人はそういないみたいですね。
日程がきついと、昼に最終公演をして、車で何時間もかかって移動して、夜は次のフリンジの公演初日とか、公演中にも次のフリンジのリハーサルに往復何十時間かけて行って帰って来てとか。
そういう交通費も自腹だから、公共交通機関をいかに利用しないで費用を浮かすかも大事で、友達の友達の友達、みたいなアーティストの車に乗っけて貰ったり」

 怖くない? 危険な目にあったりとかは?

ヤノミ「そりゃ怖いですよー。でもアーティスト同士なら大丈夫かな」

                  2011年11月22日 レフカダ新宿