★裏方に訊く 2009年5月
ゲスト
「舞台音響・佐藤こうじ」


【全3回 其の1

 舞台音響という仕事は、芝居小屋で客席に役者の声がちゃんと聞こえるように、また効果音やBGMを的確に流したりする係のことを言う。舞台セットや舞台衣装などはクローズアップされる機会も多いポジションだが、音響さんの仕事っぷりはなかなか知られる機会もないだろう。ということで「芸能往來・裏方に訊く」第一回目は舞台音響そして音楽家の佐藤こうじ氏をお迎えしました。
 佐藤さんと私は『下町ダニーローズ』という劇団で現場をずいぶん一緒させて貰ってます。その仕事の的確さと姿勢の真摯さは裏方として学ぶべきことも多い若き職人さんです。


撮影/スズキマサミ 2009年2月13日 東京・千本桜ホール

佐藤こうじ
1982年、東京生まれ。SugarSound代表。
作曲、編曲、舞台音響と幅広く活動。主な活動団体、双数姉妹、ロリータ男爵、TRASHMASTERS、猫☆魂、プラスイズム、下町ダニーローズ他
HP http://sugarsound.net/

 一口に舞台音響と言っても大きく三種類あるそうだ。

佐藤「マイクや楽器を使うコンサートなんかの音響は『PA』、演劇などは『芝居の音響』、そしてワイヤレスマイクを多用する『ミュージカルの音響』、と大きく言うと分かれるんですよ。3つともやっているっていう人はほとんどいないと思いますね。
演劇の音響は芝居の呼吸を読む部分が大事ですし、ミュージカルの音響になると何人かのチームでオペレーションするので、メインでオペレーションする格の立場になるまでは経験を相当積まなきゃなんなかったりします」

 小劇場などの芝居の場合、舞台の足元や舞台セットの片隅にセリフや物音を拾うための小さい集音マイクがセットされている。特殊な効果を狙う以外、胸元にピンマイクを仕込むということは少ない。一部には全員ピンマイクでやる劇団もあるそうだ。
 音を拾うと言っても、正面を向いてしゃべる声は聞こえても後ろを向いてしゃべったら聞こえない、じゃまずいのだ。どの位置でしゃべっても音が拾えるようにセッティングするのも技術。その音のバランスを取りながら、電話の鳴る音、拳銃を撃つ音など、効果音をドンピシャのタイミングで出さねばならない。ピストルをまだ構えてる途中で発射音が鳴ったら興ざめでしょ。芝居の隅々、役者の一挙一頭足まで気を配らないと務まらないポジションだ。

佐藤「劇場によって機材もまちまちですし、壊れていたり性能が悪かったりすることもあって望んでる音が出せない場合もあるんで、基本的には機材は自分で揃えて持ち込みます。
どこの劇場の機材はどうで、あそこの劇場の機材はこうで、って同業者と情報交換したり、そういう勉強は常にやってますね。
会場によってはスピーカーを増やしたりすることもあったり、搬入作業は手伝いを頼んでやらなきゃなんないし。それも同業者の助け合いでやってます」

 だんだん音響さんの仕事の概要がつかめてきたでしょうか。しかしこれは劇場に入ってからの作業。その前にやることも多いのです。

佐藤「まず台本を読んで演出家と話をします。どこでこんな感じの音楽を使いたいので探して欲しいとか、この音楽を使って欲しいとか、こんな感じの効果音ないかな、なんていう注文が演出家から出るので、それを探したりするのも仕事です。演出家が探してきたりする場合もありますけど。
それから最近はDVDで販売することがあったりテレビで放映することがあったりするので、著作権の問題もあってオリジナルを作って欲しいという注文も多くなりましたね」

 ここで音楽を作る、作曲の技術も必要になってくる。その作った『音楽』と、その音をコントロールする『音響』の作業、別の人がやることが多いそうだ。佐藤さんも音楽の場合は基本的に音響はやらないそうだ。

佐藤「『音楽』と『音響』の両方をお願いします、って頼まれたら、音楽だけにして欲しいって言いますね。極端な話、音響は技術さえあれば誰でも出来ますけど、作曲はやっぱり個性が出ますからやりがい的にもありますし。実際作業的にも時間的にも厳しいのと、両方やっても片方分しかお金が出ないということもあったりするので、そこはきっぱり分けています」

 で、佐藤さんのHPを見ていただければわかるが、2008年は音響で27作品、音楽で6作品手がけている。公演は平均5日間としても135日は劇場で仕事してることになる。その準備で稽古場にも公演日数より入らなくてはいけないし、作曲だってしなきゃならない……となると途方もない労働である。そこまでしないと食べれないという現実もあったりするようなのだ。
 大学や専門学校には舞台音響を学ぶコースなどというのも多いのだが、現実はかなり厳しい状況らしい。今舞台に関わる音響さんはどのくらいいるのだろう。

佐藤「きちんとプロとしてそれだけで食べていけるとなると、フリーランスの芝居の音響さんで私が知ってるだけで東京で40人前後です。裏方の中でも人数は少ない職種だと思います」

 実際役者さん達、舞台に上がる人達から比べれば裏方の人数は音響に限らず圧倒的に少ない。特にプロとなると。では佐藤さんの思うプロとはどんなものか。

佐藤「やっぱり食べていけるか、というのが分岐点にはなりますね。
ギャランティーの話をするときに、公演開催期間だけを対象に計算されるとキツイんです。やっぱり稽古場に行って雰囲気をつかんでいかないと作れない部分も多いですし、そういう時間が作れなくて、言われたことだけしかやれない状況になっちゃうのも、こっちとしても辛いんですよ。それだったら誰でもいいってことにもなるじゃないですか。
そいう意味でも稽古場に安心して参加できる分のギャランティを加味して貰えないと厳しくなりますね。その時間を他の現場で稼がなくちゃなりませんから。だからいい仕事をするためにも、きちんとギャランティの話はして、出せないなら言われたことしか出来なくなっちゃいますよ、っていうアピールもしないといけないんですよ。自分だけでなく業界的にもそういうことはきっちりしていかないと。
でも現場によって事情もありますし、この劇団は大きくなるな、次も手伝いたいな、と思えば今回は少し安くても、ということもあります。ケースバイケースですね。
そういう部分も含めて仕事に対する姿勢を持つというのがプロなんだと思いますよ」

 正しい! 私なんぞその辺でまあいいか、と思ってギャラ以上必要以上の能力を出してしまい、浪費して報われない現場をどんどん増やしているような……(泣)見習わなければ。

 小劇場の経済についてはバックナンバー「藝能往來、その前に“3,000円の価値”を考えてみよう」を読んで頂きたいのだが、誰が儲けてるわけではなく、みんな苦しい中で賢明にやりくりしているのだ。

 ではなぜそんな儲からない酔狂者の道を歩むことになったのか、佐藤こうじヒストリーはまた次週お送りします。