★裏方に訊く 2009年5月
ゲスト
「舞台音響・佐藤こうじ」


【全3回 其の2

 プロとして裏方になる。そんな酔狂者の道になぜ入ったか。特に裏方は地道で険しく先は見えずに足元はどんどん狭くなる道がほとんどなのだから(苦笑)。
 さて2回目はそんな道にどうして迷い込んだか、佐藤こうじヒストリーを訊いてみた。

 まず音楽との出会いから。

佐藤「中学2年の時にテレビで音楽番組を見ていて、ちょっと自分もやってみようかなって思ってギターを始めたんですよ。で高校でブラスバンド部に入って作曲に興味を持ったんですね。そこで大学で音楽を学んでる先輩から色々作曲の理論を教わって、自分でもテキスト買って勉強したんです」

 高校生が作曲に興味を持ったら普通バンドでギターかき鳴らす、ってのがフツーだが、理論をおもしろがって勉強するあたり、ちょっとフツーじゃない(笑)

佐藤「バンドもやりました。高校時代は軽音楽部とブラスバンド部、それから合唱部もやりました。とにかく音楽と名のつく物は全部やってました。バンドはちょっと時代遅れでしたけど BLUE HEARTS とかパンクロック系ですね」

 作曲理論など、そんなの関係ねー!!、のパンクロックにも足を突っ込んでいるあたり、やっぱりフツーじゃないぞ。

佐藤「高校卒業して専門学校へ行くかたわら、兄弟のつながりで知り合った人達と自主映画の製作に携わったんですよ。専門学校は映画音楽をやりたくてそういうコースのあるところに行ってたんですけどね。映画音楽さえ学べば色々通用するようになるんじゃないかと安易な考えもあって(笑)。
で、高校の軽音楽部の仲間が多摩美(多摩美術大学)で、その繋がりで多摩美の劇団で『ロリータ男爵』というのがあったんですけど、急に本来の芝居公演が出来なくなって短いコント集のような公演をやることになって、それを出来る音響を探してるってことで人づてに呼ばれていったんですよ。それが音響の最初の現場です」

 いきなりの初現場だが、そもそも芝居に関心はあったのだろうか?
 あ、ちなみに『ロリータ男爵』という口にするとちょっと恥ずかしい名前の劇団、実はミュージカル劇団。が、とてもマジメにふざけたエセミュージカルである。歌も踊りも笑いもあるエンターテインメント集団。私もファンです。

佐藤「それまで『ロリータ男爵』どころかほとんど芝居は観たことなかったんですけど、『ロリータ男爵』は一応ミュージカルなんで、歌を作るのに参加できるかなっていう期待もあって参加したんですけどね。それにその時はコント集ということで普通の芝居じゃなかったし。でも知らないことばっかりで、やりながら機材を買い揃えたり、専門用語がわかんなくて慌てたり、けっこう大変でしたけど何とか事故もなくやり遂げられました」

 それから引き続き『ロリータ男爵』の音響に参加し、今は念願の作曲で関わっている。
 そんな感じで舞台音響の道に足を突っ込んでしまった佐藤さん、技術はどうやって学んでいったのか。

佐藤「5,6年前に僕が音楽を担当した舞台で音響をして頂いた方がいるんですけど、それ以降その方を音響の師匠として色々勉強させて貰ってるんです」

 佐藤さんのようにやりはじめてから師匠と呼べる人に出会うこともあれば、弟子にして下さい、と入門と言う形で徒弟関係を結ぶ人もいるそうだ。

 ではプロとしてやっていくということをいつ頃から考えたのだろう。

佐藤「バイトしながら2,3年やっていて、4年前にプロでやっていこうと思ったんです。それはお金を貰っている以上、ここまではやりたい、これ以上妥協したくない、っていう意識が高まってきた時期ですね。
じゃあそういう意識を高めるためには、お金のことも含めてどういうつき合い方を劇団とすればいいか、っていうのきちんと考えるようになったんです。
そういうまわりとの関わり方の他に、予算の中でどれだけ自分の限界値を延ばせるか、そういう自分に勝負をかけたりするようなこともし始めましたね。
で、結果的に仕事の依頼が増えたんですよ。
関わっていた劇団や演出家が売れていく時期にも重なって、いいタイミングでプロとしてスタート出来たんだと思います」

 プロとしての姿勢を持つことがプロとしてのスタートになった。
なし崩しでデザイナーになりカメラマンになった私とは随分違う(苦笑)。

 ではプロとして仕事を請ける基準とは何だろう。

佐藤「僕たちは演出家と舞台を作っていくんですけど、窓口となって仕事をするのは制作という部署の人となんです。スケジュールの管理やお金の交渉、そういう事を担当している部署なんですけど、この人達がきちんとしてるかっていうのがもの凄く大事なんですよ。連絡がいい加減で、稽古場が変わったの知らされないで行ったら誰もいないとか、やる気なくなっちゃうじゃないですか。時間も無駄になっちゃうし。
あと企画書を提出してくれるか、っていうのも大事に考えてます。やっぱりきちんと事務的な作業が出来るっていうのは、当たり前ですが信用に繋がりますからね」

 激しく同意する(笑)。これは裏方の総意だろう。ホントに現場は制作の技量一つで劇的に変わる。で、出来るなこの人、って思える制作がなかなかいない。
 先日ある芝居の制作事務所と大モメしたばかりなので、語り出したらキリがないのだが(苦笑)

佐藤「結局その公演を裏方として一緒に成功させたい、という思いを共有出来ない人達とは仕事はしたくないなって思いますね」

 そうなのだ。陳腐な言葉だが “心ひとつ” になりたいのだ。
そういう “心ひとつ” の現場の高揚感とか緊張感とか味わっちゃうと、これが逃れられなくなるものなのですよ(笑)。

佐藤「あと最近感じ始めたのが、音響の立場としてもっと舞台にアーティスティクに関わってもいいんだということですね。
例えば台本では音の指示は書かれていないけれど、このシーンではこういう音があった方がいいとか、そういうことを演出家ぶつけていって一緒に考えていけるっていうのは、すごいやりがいなんですよ。
僕は舞台を観ながらもどこか音で聴いている部分があって、観ているだけでは感じない音の出方の不自然さが気になることがあるんですね。その台詞をどの人に向かって話しているのか、ちゃんと理解して話してないな、とか音で感じるんです。そういう部分から演出家や時には役者さんに話したりするのも僕の役目だったりするのかな、と思います」

 私も写真を撮っていて気になることは演出家に言ったりします。私の場合は顔の表情が気になります。悲しいシーンの時、悲しいからそういう顔をしてるのか、悲しい顔の形を作っているだけなのか、そういうのは一目瞭然なんですな。

 あと私は音響さんや照明さん、ずっと舞台の本番に付き合う人に絶対に訊いてみたい事があった。ずっと芝居観ていて飽きませんか?

佐藤「(笑)それはないですね。音響はロボットだって教えられたという事もあって、本番が始まってしまえばきちんと音を操るという仕事を全うするだけですから。
役者の感情に合わせるっていう部分ももちろんありますけど、特に本番に入ったらそれに自分の感情は足さないっていうのが基本にありますからね。それにきちんと稽古に着いていればそのシーンが来たら反射的に音を出せるようになります」

 演者も裏方も稽古が大事なのだ。

佐藤佐藤「特に最近参加した効果音がやたら多い舞台で、これは稽古にがっつり着かないと厳しいぞって思って、時間的にも日数的にもがっつり着いたんですよ。そしたらやっぱり凄く納得出来たんです。それから尚更稽古場の重要性っていうのを感じるようになって、作業の仕方も稽古場で処理するっていう時間を増やすようにしてます。
一番は色んな事が試せるっていうのが大きいんですよ。それは自分だけではなくて演出家や役者さんと一緒になって、音を出すタイミングとかを考えたり、そういう音の面からのアプローチもどんどんやりたくなってきてますね。
でもそういうことをちゃんと言い合えるのって、コミュニケーションが成り立ってないと難しいんですよ。その為にも稽古場にはたくさん着きたいんです。毎回稽古の最初から最後まで着いて最低でも1週間、本当なら2週間は着きたいですね。でもいろいろ予算もありますし、なかなか(苦笑)」

 どんどん舞台音響としてのキャリアを積んで、演出家からの信頼も得てオファーもひっきりなしの状況。今年もスケジュールは一杯の様子。
 次回は佐藤さんの今後の野望を訊きたいと思います。


撮影/スズキマサミ 2007年12月31日 東京・アイピット目白
下町ダニーローズ公演「どん底」にて出演者・スタッフ一同(左端が佐藤氏)