★裏方に訊く 2009年5月
ゲスト
「舞台音響・佐藤こうじ」


【全3回 其の3

 ほとんど毎日のように舞台と稽古場に通う日々。そんな中でこれからの展開をどう考えているのか、最後にそのへんをぐぐっと訊いてみた。

佐藤「もともと音楽を作る方がやりたいっていうのもあって、舞台音響をどこまでやるのかっていうのをずっと悩みながらやってたんですよ。
最近はその音楽を作る仕事も増えてきて、考える時期には来てるんですけど」

 とは言え、これだけ仕事が出来る人材を現場は放っておかない。

佐藤「いきなり辞めますっていうのも出来ないですし、誰か紹介するにも責任重大ですし。
実際数を絞ろうとも思ったんですが、なかなかそれが難しくて。
それに実際音響の仕事が楽しくなってきちゃってるのもあって(苦笑)」

 現場の楽しさを覚えるとなかなか抜けられないのはよ〜く判ります(笑)

佐藤「でも音楽を作ることでも最近考えることがあって、自分がこういう芝居に音楽を付けるということに、向いてるんじゃないかって思うようになったんですね。
ポップスを作ってる人が作る舞台の音楽とも、クラシックの人が作るものとも違う、やっぱり音響で舞台に関わって芝居を観てきた自分の音楽は、それが舞台音楽としてひとつのジャンルとして成立するものになってるんじゃないかと。
音響で参加して他の人が作ってくる音楽に触れる機会が多いんですけど、それを聞いて自分の作る音楽と比べたりしたときに、自分の音楽には色がないな〜って感じたりするんですよ。それは意図している部分もあるんです。
僕は演出家の考え方、頭の中を音で表現しようと思っていているので、演出家が語る言葉であったり書かれた台詞であったり、そういうものから音を創造していくんですね。結果それはとても単調なものかもしれないし、印象に残らない物かもしれないけれど、音楽が芝居の一部になってくれればいいと思ってるので、音楽自体に色がなくてもいいんです」

 演出家の作り出す世界をより広げ深める音楽と、舞台という空間を活かす術を、感性と技術の両面からサポートできる、なかなかいる人材ではない。
 ある劇団が公演を打つときに、スタッフで一番先に押さえるのが佐藤さんのスケジュールだというのも頷ける。

 しかし音響を離れて音楽だけを提供した場合、いざ使われるときに自分の意図した使い方と違ってたりすることに不安はないのだろうか?

佐藤「それはないですね。音楽を任せてくれる演出家はそれを使いこなせる音響さんを用意してくれるので、信頼して渡せる現場がほとんどですね。
それに自分が音響をやっている分、現場で変わってしまう事情もわかりますし。音楽を渡したらそれは演出家や音響さんのもの、っていうふうに思ってますね。
意外な使われ方をして、勉強になったり刺激受けたりってこともありますし、それはそれで楽しみにしてる部分でもあるんですよ。
ただ忙しくてその現場を観に行けないときは悲しいですね。ビデオ撮っといてくださいって頼みますけど(笑)」

 これは私も同じ。デザインをやって写真も撮るが、写真だけ渡してデザインを他の人がやるとき、どう使われるかとても楽しみだったりする。

 音響と音楽、両方にやりがいを覚えてしまった昨今、今後バランスをどう取って行こうと思ってるのでしょうか。

佐藤「30歳までにあと3年、その間に音響の仕事のパーセンテージを半分にして、音楽の仕事を増やしていきたいとは思ってるんです。ただどっちかに絞るっていうことに関しては実際決めてはいないんですけどね。
プロになると決めたときに、とりあえず音響の仕事を突き詰めようと。それから音楽に行こうと思ってたんですね。で今実際音楽の仕事も少しずつ増えてきて、そろそろタイミングなのかなとも思うんですけど、現段階ではやれるだけ両方やってみようって思ってます」

 学生時代に目指した映画音楽に関しての興味はなくなってしまったの?

佐藤「いやいつでもやってやるくらいの気持ちは持ってますよ。だた今の舞台音響と音楽っていうのを突き詰めた次のステップに用意してある、くらいの感覚でもありますね。
でも舞台と関わっていて、演出家や役者さん達と一緒に舞台を作っていく楽しさを覚えてしまったので、映像に行くとそれが味わえなくなるのは寂しいかな〜と思ったりもします。
役者さんやスタッフと話したりする中で、気づいたり学んだりすることもありますし」

 こりゃ当分舞台の現場は離れられそうにないみたいですな(笑)

佐藤「まだ詳細は発表できないんですけど、9月にちょっと大きい舞台に参加するんですね。それが演出家の意向で音楽と音響両方やることになったんですよ。
主題歌みたいな物も作ることになったり、かなり自分自身の転機になるような舞台になりそうなんです。これは今までの代表作にするような感じで挑んでいこうと思ってますね」

 最後に佐藤さん自身がアーティストとして中心になって何かやる、っていうことは考えないのか訊いてみた。

佐藤「まったくないですね。やっぱり僕は演出家とか作る人の意志を拾い上げて、その意志にマッチングしたものを作っていくのが好きなんですよ。
ボーカルプロデュースとかもやってみたいとは思いますけど、やっぱり僕は作る作業は好きなんで、発表する時には演奏なんかで表に出るなんて考えられないです。その時は客さんになって楽しんでいたいと思いますね」

 まさに縁の下の力持ち、である。

 今回いろいろ話を聞いてやはり一番感じたのがプロ意識の高さである。まだ若いのに(笑)。これはホントに見習わなきゃな〜と思うこと頻りだった。
 音響と音楽を両方手がけるというのは、私のデザインと写真を両方手がけると言う部分にとても共通することもあったり、刺激になる話が聞けてとても楽しかったです。

 またどこかの公演で現場をご一緒出来たら、心ひとつの現場に出来るよう、お互いがんばりましょう。


撮影/スズキマサミ 2008年6月14日 東京・紀伊國屋ホール