★裏方に訊く 2009年7月
ゲスト
「劇団 月歌舎」


【全3回 其の1

 先日田舎に住む旧友と話しをしていて、最近舞台にかかわってると言ったら、一昨年放送された「下北サンデーズ」というテレビドラマを引き合いに出され、みんなあんな感じなの? と訊かれた。う〜ん、まったくあながち嘘が描かれていたわけでもない。
 かと思うと先日、本多劇場で芝居を観ていたら隣にすわった大学生達が、こんな小さいところで芝居観るの初めてだ、と驚いていた。ちょっと聞き耳を立てていると、どうやらコンサートホールでやるような商業演劇しか観たことがないらしく、小劇場というのはこの本多劇場クラスを言うのだと思ってるようだった。「下北サンデーズ」ではこの本多劇場は頂点のように崇められた大会場なのに(笑)。
 小劇場と商業演劇、何が違うという話しになると書ききれなくなるのだが、その間にあるような、もっと気軽な演劇があってもいいんじゃないかとも思う。
 ジャスなどでは、知ってるアーティストでなくても、フラっとライブハウスに音楽を聞きに行くとか、落語ならフラっと寄席に行く、というような習慣があったりする。演劇にはそれがほとんどない。そういったスタンスを意識してか、最近では音楽をやっているライブハウスやカフェなどを会場にして公演を打つ劇団も増えてきている。
 そこで今回は、あまり日本にはない飲食しながら演劇を観るシアターバー「コレド」で公演を打つ、劇団「月歌舎」の公演が出来るまでをレポート。
 定員50人の会場で、舞台セットなしで公演を打つ。演劇としては最小規模の部類に入るでしょう。演劇をやってみたいがどうすればいいのかわからない、などという方々にも、おいしいワインを飲みながら演劇が観れたらいいのに、と思ってる方々にも、こういう舞台もあるんだよ、と興味を持って読んで貰えるかと思います。
 長々と前置き失礼しました。一回目は先に出てきた「下北サンデーズ」にちょこっとだけ出てたりもする、入月謙一氏(公演脚本・演出・出演)に、公演のきっかけなどを訊いてみました。


劇団「月歌舎」

前身の劇団「東京レネゲイド」の解散に伴い、劇団員であった、入月美樹・入月謙一・そして入月裕美子の姉弟3人で、2000年「月歌舎」旗揚げ。以降、不定期ながらほぼ年一回のペースで公演を行い、この夏第10回公演を開催。
中野ザ・ポケットやアイピット目白の小劇場から、渋谷WESTED TIME などのライブハウス、お茶の水文化学院などの学校公演、などなど様々なところで公演を行っている。
作品の特徴としては、歌・踊り・殺陣・時には狂言などを駆使し、舞台でしか味わう事が出来ないエネルギッシュかつコミカルな舞台を創作。
◆月歌舎WEB SITE  http://gekkasya.main.jp/

 

● 入月謙一

1975年、山梨県生まれ 「月歌舎」のほとんどの作品の脚本と演出を手がける。
主な出演作 舞台(※月歌舎以外)「あ・うん(原作:向田邦子 劇団下町ダニーローズ)」「あした(原作:赤川次郎 大林宣彦監督映画作品舞台化 劇団下町ダニーローズ)」「ウェザーリポート(演出:腹筋善之介、松村武)」「狂言劇場・唐人相撲」他。映画「バトルロワイアルII(深作欣二・健太監督)」「ブラック・キス(手塚眞監督)」「20世紀少年/第2部・3部(堤幸彦監督)」他。ドラマ「下北サンデーズ(テレビ朝日系)」「革命ステーション5+25(LISMO video 連続ドラマ)」他。 

 

今回は貧乏臭くない会場でやりたいって

 この公演「魔王」は昨年末シアターバー「コレド」で上演され、この8月に再演されることになった公演。まずはこの公演を昨年上演したきっかけから。

入月「知り合いの結婚式の余興でやった芝居、まあ寸劇ですけど、それがことのほかウケたんですよ。それをやるにあたって考えたのが、お客さんは酒も入ってるし食事もしながらだし、それをいかに惹き付けるかだけを考えて作ったんですね。
今までの劇場でやっていた自分たちの公演は、どちらかというと内面を探るような内容をいかにエンターテイメントとして見せるか、みたいな内容だったんですけども、そうではないもっと単純に楽しめるような、余興でやった感じで芝居が作れないかな〜と思ったのが、きかっけになりますかね」

 意外なきっかけで新しいスタイルの入り口を見つけたようだが、そういう芝居をやるにあたって探したのがシアターバー「コレド」。

入月「小劇場での芝居っていうと、バラエティで貧乏劇団員が紹介されたり、「下北サンデーズ」みたいなドラマで描かれてるような貧乏で苦労して、みたいなあまりにもステイタスが低い印象ってあるじゃないですか。実際そうだったりしますけど(笑)。なので今回は貧乏臭くない会場でやりたいってのがあったんですよね。
で、いろいろ探してライブハウスとか候補にしてたんですけど何せ会場費が高くて。そしたらウチの座長が偶然ネットで「コレド」を見つけたんですよ。場所は乃木坂で貧乏臭くないし、会場費は安いしっていうので下見に行ったら、小劇場臭とかアンダーグランドな感じも無くて、ことのほかいい雰囲気だったんですぐ決めました」

 確かに都会のナイトスポットのライブハウスっていうような雰囲気。

入月「芝居を観るお客さんでも、小劇場じゃなくて宝塚だったり、シアタークリエ、シアターコクーンなんかの商業演劇を中心に観てるお客さんってけっこういるんですね。特にOLさんとかに多くて。そういった人達もお客さんに取り込みたいじゃないですか。そういう人達が足を運びやすそうな会場だったし、デートにも使えそうですし。そんな用途で足を運んで貰ってもいいですしね。
そう言うとコントやダンスショーを見せるショーパブ的な雰囲気を思い浮かべる方もいるでしょうけど、そこまで派手な会場でもないですし、もっと演劇寄りな作品をきちんと見せることをしたいんです」

 上演されたのは「魔王」という芝居だったが、この芝居には副題として「ミュージカル!?」というのが付いている。定員50人のシアターバーで歌って踊る芝居なのだ。

入月「個人的に最近ミュージカルとかオペラとか好きで観てるんですよ。それにダンスも声楽も習ってたりするのでその発表の場も欲しかったんですね。狂言の舞台にも立っているので、それも活かしたいし。もちろん今までの芝居の笑いもあったりするエンタメ的な部分も活かして。で、そういう内なる衝動を止められずに全部の要素を入れちゃったんです(笑)」

 狂言は昨年野村萬斎さんの舞台のオーディションに合格してから参加し、この春、人間国宝の野村万作さんの狂言の舞台で全国を一緒に回って来たばかり。
しかし、ダンス+歌+演劇+笑い+狂言……私もこの話を聞いたとき想像も出来ない組み合わせでした。

入月「確かに(笑)。会場とか場のシュチエーションを考えればあり得ないですけどね。
でも今まで観てきたミュージカルや、落語家さんや芸人さん達と一緒に芝居に出たりしている中で、自分なりのダンスや歌や笑いに対するアプローチを考えていくと、あながちこういった会場でも出来なくはないかと思って」

 自分なりのアプローチ、それは具体的に言うと?

入月「笑いに関して言えば、ネタ的な部分ではなくて、日常会話での呼吸感とかリズムの中で生まれる笑いっていうのを意識してます。笑いを作るんではなくて笑いが生まれるっていうような。まぁ俗っぽい切り口ですけど、この小さな空間ではその方が伝わりやすいですし。
ミュージカルに関しては、やっぱりお客さんがありがたがってしまうって言うか凄いものとして観ちゃう感じがあるんですよ。僕もですけど(笑)。だからもっと歌って踊って伝えるという単純なものとして取り込んで楽しめないかな〜って思ったんですよ。
で、実際僕はジャズダンス12年やってますし声楽も習ってますから、ある程度の技術を持ってそういうことにチャレンジ出来る気がするんですよね。そこに野村万作さんや萬斎さんの舞台に出させて頂いて学んだ狂言も取り入れれば、これは他の誰にも出来ないものになるだろうと。ましてやあの小さな空間でとなると、誰もそこは狙って来ないだろうと(笑)」

こういう演劇っていうのもアリでしょ?
っていう訴えかけをしたいんですよね

 ダンスに狂言を加えるというのは他にも類があるが、そこにミュージカルと笑いもとなると確かに類を見ない。

入月「飲みながら食べながら1時間20分、笑って軽く楽しめるような芝居なんですけど、やっぱりストーリーで飽きさせないっていうのは演劇の絶対基本にあるわけで、そこは今回の「魔王」に関しては意外と巧く作れたかなって思うんですよ。感動とか大爆笑はないにしろ(笑)」

 ちょっとした謎解きが隠されていたり、ミュージカル+狂言の踊りもなかなかだったり、飽きずに楽しめる内容であることは確か。

入月「実はキャスティングを現実問題抜きにして考えてみたんですが、(ここでベテラン俳優達の名前が挙がるが、あえて伏せます)それでやったらシアターコクーンでも普通にやれるんじゃないかって、勝手に思ってるんですけどね(苦笑)」

 これは作った人間のうぬぼれだと思われるかもしれないが、客観的に見てそのキャスティングらなら確かにめちゃめちゃ面白くなりそうだし、絶対観たい(笑)。

入月「その人達が俺にやらせろって言うまでロングランで続けたいんですよね」

 これは笑って聞き流して下さい(笑)。

入月「ただ、だからこそ小劇場界でも名前が全く売れてないこのメンツでどれだけこの芝居の世界を広げられるか、深められるかっていうのも勝負なわけですよ。作家の自分から役者の自分に対してハッパをかけるっていうか。だから理想のキャスティングを妄想したりするんですけどね(笑)」

 確かに芝居はキャスティングが命、と思うことがある。私も理想のキャスティングを妄想しながらつまらない演劇や映画を観ることは、正直結構ある(苦笑)」

入月「この公演では、ごちゃ混ぜの内容にしても、会場にしても、こういう演劇っていうのもアリでしょ? っていう訴えかけをしたいんですよね。それはお客さんに対しても、演劇界っていうものに対しても。
売れてもいない劇団ですし、ものすごくちっぽけな行動かもしれませんが、そういう思いも込めて演劇っていうものを取り巻く環境に一石を投じられたらって」

 じゃあ、こういうシアターバーでの上演はこれからも機会を作ってやっていくのでしょうか?

入月「初めは月歌舎の番外編公演、っていう形で始めた形式だったんですけど、ちょっとしばらくこの形式で挑戦していきたいな〜って思って。
ちょうど会場の「コレド」側から、この夏にこういった小さい演劇を集めたフェスティバルをやるので出ないかと声を掛けてもらったのもあって、冬にはまたここで新作をやろうかとも考えたんですけど、色々考えて再演にしました。
こういう形式だと、ある程度ロングランしないと認知もされないでしょうし、やっぱり妄想のキャスティングの方々に伝わるまではやらないと(笑)」

 自分達にしか出来ない舞台、自分達がやらなければいけない舞台、それは舞台人誰しもが考える事かもしれないが、小さい劇団が小さい公演でやろうとしていることは、とても大きな一歩かもしれない。う〜ん、ちょっと大げさ?(笑)。
少しでも興味をそそられたら会場に足を運んで、軽く飲み食いしながら小さな演劇に触れてみて下さい。

 

月歌舎 第10回公演「魔王」
(コレド演劇フェスティバル参加)
2009年8月7日(金) 15:00(公開ゲネ)/19:30 8日(土) 19:30 それぞれ開演
会場  乃木坂コレドシアター  http://www.tc-coredo.join-us.jp/
詳しくは月歌舎HP http://gekkasya.main.jp/