★裏方に訊く 2009年7月
ゲスト
「劇団 月歌舎」


【全3回 其の2

 先日青山劇場に芝居を観に行き、知り合いの役者さんの楽屋にご挨拶に伺った。ダンサーなども出ていて出演者は総勢32名。スタッフは100名近くいる大公演。
 しばらく楽屋の外で待つ時間があったのだが、そこの廊下で衣装の片付け作業をしていたスタッフだけでも10人ほどはいただろうか。
 一番驚いたのは、役者さん達に届いた花を飾るためだけの30畳ほどの大きさの部屋があり、町の花屋5軒分はあろうかという凄い量の花が置かれていたことだった。圧巻の風景(笑)。今回取材している月歌舎の芝居の規模と対極にある公演でした。

 そんな大公演は遙か彼方としても、舞台ってどうやって作られていくの? っていうのを月歌舎の座長・入月美樹さんと、前回に引き続き入月謙一氏に訊いてみました。あ、ちなみにこのお二人は姉弟でございます。

 

類は友を呼ぶっていうような状況で
集まってくるもんなんです。不思議と(笑)

入月美樹(以降、座長)「まったく演劇経験が無い人達が公演をやる、っていうのは結局何かやろーぜーっていうようなノリで始めちゃう、バンドやるのとかと一緒のノリで始まる場合と、演劇が好きで自分も作ってみたい演じてみたいっていう人達が中心になって、人が集まる場合がありますね。
でもいざ始めてしまってだんだん事が現実的になっていくと、最初にやろうやろうって言ってた人間ってほとんどいなくなったりするものなんです(笑)」

 演劇もノリとしてはバンドやろーぜ、みたいな所から始まるが、バンドはみんながステージに上がりみんなが主役になれて、練習してライブハウスに出してくれー、と言えばすぐ活動はスタートできる。しかし演劇は……。

座長「ライブハウスみたいなスタッフまでパッケージ化された会場がない分、出演者だけで事足りるもんじゃないですから、裏方も含め関わる人間を集めなきゃなりませんね。
でも意外と人は集まってくるんです。言い出しっペの人がいなくなっても結局何とかなっちゃうんですよ(笑)。
ホントに意欲があったり好きだったりする人が残って、類は友を呼ぶっていうような状況で集まってくるもんなんです。不思議と(笑)」

 これはちょっと判る。私も演劇を観る側で楽しんでいたのに、色んな偶然が重なり何故かいろんなとこで舞台に関わるようになってしまっている。

座長「で、公演をやろうと思ったらまず一番先にやるのは会場の確保ですね。
場所と日時が決まるともう逃げられない。腹をくくります(笑)。
都会なら大小様々な劇場もありますし、私達が今度やるシアターバーやライブハウス、カフェなんかも会場にはなります。地方だとます市などの公共施設なんかを使うのが一般的です。
でもどういったところでも大概予約は半年前から受け付けです。都内の有名な劇場になると、脚本や過去の公演の映像なんかの審査があったり、数年先まで空きがなかったりするところもけっこうありますね。
各駅しか止まらない私鉄沿線の駅から徒歩20分とかいう会場もあります。友達だけしか見に来ないような最初の頃の公演なら、会場費も安いですしそういう場所もアリかと思います」

 一般の住宅の一部を改装して劇場にしているような所もありました。楽屋の隣の部屋は大家の居間、みたいな(笑)。

座長「次はスタッフ集めです。とにかく必要なのは照明と音響。学生だと放送部とかにいる友達にやってもらったりする場合が多いですね。公共施設なんかを使う場合は会場にそういったスタッフがついている場合もあります」

 何を上演するかはいつ決まるのでしょう?

座長「それは様々ですね。初めっから脚本があってキャスティングも決まっていてそれに合った会場を探す場合もありますし、だいたいのあらすじだけが出来た段階で探す場合、何にも決まってないで、とりあえず会場を押さえる場合もあります。
会場の大きさや使用料が脚本を大きく左右することってかなりあるんですよ」

 それは会場設備の制約があるということでしょうか?

座長「それもありますけど、もっと現実的な問題です。
出演者の数だけその人を観に来るお客さんはいるわけで、単純に出演者が多ければ多いほどお客さんも増えるということになります。でもエキストラ的に台詞もない出演者はお客も呼びづらい部分もあるでしょうし、そうなるとみんなに台詞を与えて、見せ場とまではいかなくても出番は作ってあげないといけなくなります。となると脚本にも響くわけですよ。
ぶっちゃけ、初舞台っていう人はけっこうチケット売ってくれたりするんですね(苦笑)。
でもあんまり出演者増やしてしまって、時代劇なんかやったりすると衣装やら小道具やらで大変なことになりますから、物語の時代設定も考えなくてはいけなくなります。
それから演技力にかかわらず人気があったり、前に出たがる性格だったり、そういう部分での配慮も出てきますね。特に友達同士が集まって始めた公演なんか、そういうことで友情が壊れかねません(笑)。
こういう現実問題は、公演をやろうと思ったらすぐ直面しますよ」

 いきなり大問題に直面せざるを得ない。最初から厳しい〜。

入月謙一(以降、イリケン)「以前のウチの劇団の公演で、当時の劇団のキャパを超えたちょっと広めの会場を先に押さえちぇったことがあったんです。そうなるとまず会場費ありきで全ての事を考えなくちゃならなくて、脚本を書いていた僕に座長から出演者の人数の指定が入ったんですよ(笑)。当初の構想ではそんなに出演者いらないよ〜、って感じだったんですがそうしないと莫大な赤字が迫ってくるので必死に構想練り直して、結果的には逆に面白くなった部分もけっこうあったので良かったんですが、その座長の無茶振りには戸惑いましたよ(笑)」

座長「やってみるもんでしょ(笑)。
でもその公演でかなり疲れてしまった部分があるのも現実的に今は大きいんです。お客さんを満足させる舞台を作る、ということより経済的な現実が先に来てしまうっていうのは、ちょっと本末転倒的な感じが拭えなくて。それが今度のシアターバーでの小さな芝居を作るってことに繋がっていくんですね」
 
 演劇10年選手の憂鬱に話しが逸れていきそうなので軌道修正して(苦笑)、次は脚本はどうする、っていう話しを。

座長「これは誰かが書く場合もありますが、有り物の戯曲を使う場合もあります。例えばシェイクスピアやチェイホフなら著作権も切れていますから図書館で戯曲集みたいな本を借りてきてそれを使うことも出来ます。
大昔の作品じゃなくても舞台上演用に書かれた戯曲も多くありますし、使用許可を取って使うこともできます」

 映画や小説、漫画などを元にして脚本を書くとなると、かなり色んな問題がありますので、あんまり手を出さない方が賢明。黙ってやると色んなトコから怒られます(苦笑)。


(稽古場風景)

 

稽古場は公共施設を利用。
専門の稽古場借りると
使用料一桁以上は違います。

座長「あとは脚本に合わせてキャスティング。これはまぁ色んな事情を含めて決めていくわけですね(苦笑)。それによってまた脚本を手直ししたりすることも出てきます。
あとはやはり会場の制約もありますから、宙乗りしたいとか火薬使いたいとか、雨を降らせたいとかいう無謀なシーンは作れないわけです」

 50人しか入れないシアターバーで、ミュージカルを取り入れた無謀な設定の芝居をやろうとする劇団の座長が言うと説得力がないが(笑)。

座長「それは弟がどうしてもやりたいって言い張るから」
イリケン「何だかんだ言っても、座長なんて踊るだけじゃなくて歌も歌ってるじゃない」

 ……姉弟喧嘩は置いといて(笑)、次にやるのは?

座長「すいません(苦笑)。次はチラシを作ります。
これは結構好きで作ってくれる人は周りに必ずいるんじゃないでしょうか。
でも一番大事なのはどこに配るかですね。初めてとか、友達関係が主体の客層なら人海戦術で配って貰う感じです。
一般客を呼びたいとなると自分達のやる芝居と同じような傾倒の芝居を上演している公演で配布して貰います。ただ最近はこの配布に関する作業を有料で引き受けてくれる会社があって、そこに頼むことも出来ます。
あとは劇場において貰ったり、知り合いの店などに置かせて貰ったりとか色々です」

 こういう宣伝に関しては一応プロの私の方から(笑)。
チラシを撒いたらそれだけ客が来るか、っていうのは微妙です。チラシを見て初めてその劇団なりの公演を観に来る確率は、1000枚配って1人くらいの確率でしょうか。
 ですが、公演を観に来るに至らないまでも劇団や公演の存在を知らしめることにはなります。いろんな公演で何回もその劇団のチラシを目にするうちに気になる存在として名前を覚えて貰う、っていうのも宣伝効果の一つです。
 ですからデザインや使う写真もとっても大事。その際は是非私にご用命を m(__)m

座長「次は稽古場の確保です。
これがけっこう大変です。舞台稽古用の施設もあるんですが、3、400人しか集客がないような劇団はそんなところ高くて使えません。となると公共施設とか広めのカラオケボックスとかになります。
公共施設は主に区や市の公民館や区民センターの会議室とかになりますね。これはその地区に住んでる人間が何人以上含まれないと貸してくれないとか、日時を決めて申し込んで抽選で当たったら使えるとか色々条件があります。申し込みは早い者勝ちという施設があって、申込日に始発から並んだこともありましたね。今はネットで申し込んで抽選、っていうのが多いです。半日借りて1500円とかですから。専門の稽古場借りると一桁以上は違います」

 今バリバリにテレビや映画で活躍している友人の役者も、数年前まで劇団で稽古場を借りる金がなくて公園で稽古してたりしました。

座長「稽古の初めの頃は小さいところでもいいんですけど、本番近くは、劇場の舞台と同じスペースが確保できる広さがないと、立ち位置や動きの確認が出来ませんから、その辺も考えて稽古場は探します。
あと稽古場を先に押さえて、それに合わせて出演者がスケジュールを組むんですが、これがみんなバイトしながらっていうのが多いですからなかなか全員揃わないとか、その調節も大変。出演者が多いと尚更」

 今回の月歌舎のシアターバーでの公演は舞台セットを組まないが、劇場でやる場合などは多少なりともセットは必要になる。

イリケン「セットなんて箱が何個かあれば、それを組み合わせて机に見立てたり椅子に見立てたりして何とか出来るんですけど、実際はそういうのはかなり高度なテクニックで簡単に出来るもんじゃないんです。巧い役者がやってこそ箱が机に見えてくるもんなんですよ」

座長「学生さんの場合はまず美術部にお願いですね。衣装は現代物をやる場合はほとんど自前か友人知人から借りるかです。特殊な衣装は舞台衣装専門のレンタル会社があるんですが、かなりの値段がします」

イリケン「衣装の類で一番かかるのがカツラですね。サイズもかなり細かく分かれてますし取り扱いも難しいのですが、安い物はコントに見えちゃいますから」

 稽古はどんな風に進めて行くんでしょうか?

座長「稽古はまず顔合わせと言って、出演者やスタッフなるべく全員そろって紹介したり懇親を図ったり舞台の構想を発表したり、という所から始まります。ま、この会は飲み会の場合が多いです。
次は本読み。これは台本を役者が座ったままとりあえず朗読というか読み合わせを行うという作業です。ここで全体のイメージをつかんで行く作業です。
そして立ち稽古。場面場面を抜き出して細かい動きや台詞などを確認して行きます。
ただ公演によっては、脚本は出来ているがキャスティングがハッキリ決まっていない場合もありますから、ここで同じ役を何人かでやってみてキャスティングを絞り込む場合もあります。このあたりまではまだ台本片手に読みながらやってますね」

 稽古はどのくらいの時間を掛けるものなのでしょう?

座長「それはもう劇団や公演次第です。本番一ヶ月前くらいに本読みが始まるのが平均でしょうか。その間に何日稽古するかは、予算やスケジュール次第です」

イリケン「ちょっと大きい公演に端役で参加することになると、若手は一ヶ月ほとんど毎日昼から夜まで稽古で拘束されて、本番含めると40日バイトも出来ず無収入で、ギャラはバイト10日分くらいとか(苦笑)。でもギャラが出るだけ嬉しい、っていうのも悲しい現実です(笑)」

 稽古期間バイト禁止、っていう現場もあったり、稽古と本番中は関係者間での酒席開催禁止、という戒律のような掟がある現場も。厳し〜!

座長「稽古も後半になると、音響さんや照明さんが稽古場に参加し出します。その頃には通し稽古という本番さながらに途中で芝居を止めないで初めから終わりまでやれる状態にします。それを観て貰って音や照明のイメージをスタッフと作り上げていきます」

イリケン「小劇場では役者が裏方を兼ねることも珍しくなくて、役者が古着屋でこんな服を見つけたが使えるか、って写メ送ってきたり、夜中にドンキホーテに小道具で使えそうな物を探しに行ったり、ツタヤで使えそうな効果音のCD探したり。本番が近づくにつれバタバタし出しますますね」

座長「そうですね、この時期が一番問題が多発する時期ですね。けっこう多い問題が、通して稽古したら予定より上演時間が長くなっちゃって、どっか削らなきゃっていうのが一番大変。せっかく台詞憶えたのに〜って文句言われたり。でも一番キツイ問題はチケットが売れてない、とか(笑)」

 稽古場の撮影に入っていて、この時期の稽古場の高揚感とか演者のテンションの上がり方で本番の成功が見え隠れする。この時期みんなの足並みが揃ってないとヤバイのだ。


(稽古場風景)

 

劇場で最初にお客さんと接するスタッフ、
受付の人選はとっても重要。

座長「でいよいよ劇場入り。通常は本番開始の前々日にセットや照明・音響機材の搬入と組み立てをします。これは小劇団の場合、役者も一緒に手伝うことが多いです。
前日は場当たりと言われる段取り確認のための作業をします。照明や音響のタイミングを計ったり、舞台上での役者の動きの確認や、舞台裏での動きの確認をします。舞台裏は暗闇ですので、きっちり動線を確認しておかないと事故の元です。
そして衣装も着けて本番と同じようにリハーサルをするゲネプロを前日と、初日の昼間に行います。
セットが小規模な物なら前日搬入で半日で組み立て、半日は場当り、初日昼間にゲネプロになります」

 このゲネプロを撮影することが多いのだが、客席に関係者が観に来たりしていて本番とはまた違った緊張感が漂う。
 最近はこのゲネプロにお客さんを安い値段で入れる公演もある。

座長「これで開演となるのですが、ここで重要なスタッフが登場。それは受付です。
小劇場は事前にチケットを購入されてくるお客さんが少なくて、役者や関係者に予約して受付で当日精算するのがほとんどです。ここで受付がまごつくと開演時間が押してしまいますし、始まる前にお客さんが不快な思いをしてしまったりしますから」

 これはホントに大事。受付でまごつかれて何度不快な思いをしたか。

座長「だいたい友人知人関係のボランティアでまかなうんですが人選は厳しいです。テキパキと作業をこなせる人がまず第一ですが、人当たりの感じがいい、っていうのは凄い大事。やっぱり劇場で最初にお客さんと接するスタッフですからね。居酒屋やファミレスでそういう感じがいい人を見かけるとスカウトしたくなりますもの(笑)」

 初日に手伝いや撮影で入ったり、知り合いの舞台を観に行ったりする場合は「初日おめでとうございます」という挨拶をする。楽日は「楽日おめでとうございます」。ま、業界用語ですが、ちょっと気が引き締まる感じがします。

座長「初日が終わると大きい公演ならロビーなどで、小さい公演なら居酒屋なんかで関係者と観に来てくれた知り合いの人達も含めて、初日乾杯というのをやります。まぁ呑んでるのは初日だけじゃないですが(笑)」

 公演2日目というのは俗に“2落ち”と呼ばれる。初日までの緊張が解けて出来が良くない、と言われるものだ。逆に無駄な力が入らなくて出来が良い場合もあるのであまり気にしない方がいい。

座長「公演中はこれも公演によりますが、本番終了後ではなく、次の回の前に全員集まって前の回の反省やミスの確認などを行います。
あとは公演中ひたすら体調管理をしっかりするってことだけです」

イリケン「公演によっては終わってからに居酒屋で大反省会やら説教が始まったりすることもあります。観に来てくれたお客さんと楽しく呑みに行きたいのに〜、なんて状況もあったりしますね(笑)」

 イリケンはこの反省会で先輩役者に説教されて、座長とグラビアアイドルが呑んでいた席に誘われながら行くに行けずに泣きを見た、というのは言わずにおこう(笑)。

座長「そして楽日は公演が終わって、さぁ打ち上げだあ〜、とは行きません。みんなで舞台の撤去です。役者も衣装と楽屋を片付けたら手に軍手をして肉体労働です(笑)。
制作スタッフと座長はお金の精算。会場費やスタッフさんに払うギャラは500人集客までの舞台くらいなら楽日に支払います。
ほっと胸をなで下ろすか、つ〜っと冷や汗が出るか、緊張の時間ですね」

 私も関わった公演などではこの撤去作業を手伝うこともある。労働後の打ち上げの酒は旨いですからね(笑)。

イリケン「後はもう打ち上がりますね。反省は必ずあるにしろ達成感と共に美味しい酒を頂きます」

 いろんな舞台があり一概に全てが同じとは言えませんが、だいたいこんな感じで公演は作られていきます。こういうのを知ってから公演を観るとまた面白みが一味加わります。
ん? 夢が壊れる? そういう人は読んだことを忘れましょう(笑)