★裏方に訊く 2009年7月
ゲスト
「劇団 月歌舎」


【全3回 其の3

 小劇場で上演される芝居のほとんどは劇団という冠を持っている。中にはそういった芝居を作る事務所の名前で○○○○プロデュース、という芝居や、有名な演出家の名前で公演を打つこともある。しかしほぼ劇団名義での芝居が占めている。
 しかし劇団という名前でありながら、脚本を書いたり演出をしたりする人間ひとりで劇団名を名乗ることも多い。音楽でもありますね、オリジナル・ラヴとかコーネリアスとか、バンド名義なのにメンバーひとりだけみたいな。
 そういう部分で今回取材している月歌舎は、作演出と役者を兼ねる入月美樹(座長)と同じく作演出と役者を兼ねる入月謙一、制作補助の入月裕美子の三人が一応劇団員という肩書きを持つ。公演によって作演出をどちらかが担当するという形。ちなみに長女・次女・次男の三姉弟で形成されているのである。
 今回の公演ではこの月歌舎のメンバーの他に、劇団IQ5000に旗揚げメンバーとして参加している久保田寛子、フリーの伊藤大輔が参加。それぞれの立場から劇団というものについて話しを訊いてみた。

 

劇団は運命共同体、家族のようなもの

入月美樹(以降、座長)「劇団とは何か……う〜ん何だろうな〜。とりあえず月歌舎の役者は私と入月謙一だけなのですが、劇団立ち上げの時に劇団員として役者を揃えた形にするかどうか悩んだんですよ。
その前にいた劇団は解散したんですが、やっぱり私も若かったのもあって運命共同体で最後まで一緒に夢が見れなかったっていう事に対する挫折感みたいなものが強く残ったんですね。座長がいてその人が引っ張っていく形でがむしゃらにやっていたはずが、いつの間にかみんなの間に温度差が出て、それが凄く自分で受け入れられなかったり。
そういうのもあってその共同体を維持していくエネルギーっていうのを、お客さんを喜ばせる芝居を作る為に注ぎ込もうって思って、今の形にしたんです」

入月謙一(以降、イリケン)「僕も他の劇団に参加してたりして、その劇団内の温度差を感じてキツくなるときもありますね。だから今のウチのスタイルは自分には合っているかなって思います」

 では劇団IQ5000創設メンバーとして6年間、劇団員として活動し外部作品にも多数出ている久保田さんにとって劇団とは?

久保田寛子「う〜ん何で劇団員なのかっていうのは、ひとつ居場所が欲しいっていうか、そういうのはありますね。家とかっていう感じもあるし。劇団っていうのは主宰者の理想に一緒に進んでいく、やっぱり運命共同体的な家族みたいなものかもしれません」

イリケン「そこいくと伊藤大輔のフリーっていうのは住所不定無職みたいな(笑)」

伊藤大輔「おいっ!(笑)。
劇団っていうのは主宰が劇団員を常に観ているわけで、良いところも悪いところも熟知してる分、役者を育てるために挑戦させたり試したり、っていうことを常に行う場なんです。フリーの役者や客演で迎える役者っていうのは、今その役者が持っている力を必要としていて最大限引き出そうとするんですね。そういう意味では劇団の公演は実験と挑戦、外での公演は腕試しみたいな感じなんじゃないんですかね」

座長「私達も客演で迎える役者には、持っている力を充分発揮できる芝居をしてもらおうと思ってます。それから普段近くで見ている劇団の主宰とはちょっと違った視点から役者を見ていることもあるので、そこで本人が気づいていない可能性みたいなものも見つけてあげられたらな、っていう部分もありますね」

 劇団員を構える劇団のメリットとデメリットについては?

座長「劇団員がいるっていうのは、極端に言うと会場さえ押さえればいつでも公演が打てるっていうことなんですよ。そこは強みですね。私達はまず役者を探すところから始めなきゃならないんで」

久保田寛子「でも劇団はそのために劇団を維持する運営をしなきゃなんないですし、劇団員だって役者だけやればいいっていうものだけでもなくなってきたり、チケットが売れる人、売れない人、とかいう格差みたなものとか、色々人間関係とか芝居以外の部分はと〜ってもめんどくさいんですよ(苦笑)」

伊藤大輔「そいうのも含めて楽しめる人が劇団員として残っていくんですよね。だから僕はフリーなんですけど(笑)」

イリケン「やっぱり劇団は役者を育てるというか、ひとりの人間の人生を背負う、っていうところまで必要になってくるんですよ。その覚悟は大変です。そのための力量とか覚悟がない人は劇団はやれないですよ。誰よりも人生すべてを劇団につぎ込んでないと役者もスタッフもついてこないですから」

座長「劇団は簡単に作れますけど、存続させるのが難しいんです。やっぱり主宰者の魅力や吸引力がないと」

久保田寛子「ウチは多いときは年に4回公演打っていて、座長(腹筋善之介)は他の劇団への客演も凄い多いんですよ。ラジオのDJやったり、バンドもやったり、おまけに子だくさんだし(笑)。でも劇団員はほとんど創立メンバーが残ってますから、やっぱり座長の魅力っていうのは強いですよ」


(稽古場風景)

 

劇団の居心地の良さに、逆に焦ったり
孤独を感じてしまったり

 知り合いの役者が主宰している劇団で、その役者がどんどん力を付けてきて人気も出だしたが他の劇団員がその成長についてこれなくて、劇団員を抱える劇団ではなくて、公演の度に役者を集めるプロデュース型の劇団に変わってしまったところがある。続けていくということは変化していくことでもある。

座長「共同幻想はどっかで覚めるんですよ。何の迷いもなく突っ走っていける時期っていうのはあるんです。でも続けていくウチに疑問を持ち出しちゃうんですね、このままでいいのか、とか劇団員同士の情熱の温度差とか。一番そこで影響が出るのが主宰者と劇団員の温度差です。この溝は埋められなくなりますね」

イリケン「それでも劇団ってなかなか辞められなかったりするんです。やっぱり家の心地よさっていう部分はあって、理想に向かって突き進む運命共同体から、ただの仲間の集まり、居心地の良い場所になってしまう場合って結構あるんですよ。
特に外部公演に出ない出さない劇団は井の中の蛙状態になってるところもありますし」

座長「私は劇団にいたとき、その居心地の良さに対して焦ったり戸惑ったり、逆にそう思うことでの孤独感みたいなものを感じてしまって、それを満たせない劇団や主宰に苛立っていた部分って凄くあるんです。でも劇団を運営していく以上、変化にも対応していかなければいけないし、居心地の良い場所であることもとっても大事なんですよね。それは今になって当時の主宰の年齢と近くなったり、ちょっと形態は違いますが同じように劇団の主宰をやるようになって、やっとわかることでもあるんですけど」

久保田寛子「確かにそう感じることもありますけど、私は客演でよそに出ることも多いので劇団に帰ってくるとホッとしますよ。それに座長がパワーあるんで緊張感もずっとありますね(笑)」

イリケン「腹筋さんはやっぱりカリスマ性ありますもん。そのパワーはどっから出てくるんだって思いますよ。風貌と共にちょっと尋常じゃない(笑)」

関わる役者やスタッフの選び間違いは
絶対犯せないんです

 イリケンはけっこう外部公演にも参加してるし、年末には大舞台(野村萬斎・白石加代子 主演「国盗人」世田谷パブリックシアターに出演)も控えてるし、外部で自分が演出される立場から学ぶ演出学や劇団のあり方、みたいなものもあると思うが。

イリケン「ありますけど、やっぱり感じるのは自分のやり方っていうのを見つけて行かなきゃってことが大きいですね。今更カリスマ演出家にはなれないですし(笑)、劇団員を育てるために自分が役者を封印して演出に専念することも考えられないし。だから演出されながら自分だったらどうする、っていうのを常に意識してはいます。
劇団運営に関していうと、関わる役者やスタッフを選び間違えると大変なことになるっていうのは実感します。広がる人間関係が逆に狭まってしまったりすることもあるんで」

座長「劇団、特に私達のような外部の役者に参加して貰っている劇団は、集まってくれた役者に何をしてあげられるかって言うと、もちろん良い芝居を作るってことが一番ですが、他の役者やスタッフ、観に来てくれる関係者に紹介してコネクションを作ってあげるっていうのも役割としては凄く大事なんですよ」

イリケン「劇団にも役者にも未来がなくちゃいけないですから」

 未来って言うのは?

久保田寛子「役者で食べて行ける生活ですね。劇団やってて、芝居やってて楽しい〜っていう時期はさっきの共同幻想の話しじゃないですけど必ず初めはあるんです。でもやっぱりそれだけではやって行けなくなりますし、続けていくために生活をどうするかっていうは一番切実な問題じゃないですか」

座長「所属の劇団以外の公演に出るっていうのは、役者としての腕試しの場でもありますけど、今まで自分を観たことがない人達へのアピールの場でなくちゃいけないんですよ。それは客さんに対してでもありますし、観に来たり関わったりする関係者に対してでもあります。
そういう場で未来に繋がるコネクションを提供するのも劇団や主宰としての役目ですね。私達自身もそういうところでコネクションを広げてきたりもしましたし。だから双方に対して責任が大きい。人選びの間違いは絶対犯せないんですよ」

イリケン「僕たちみたいな雑草のような劇団は、大学の演劇研究会みたいなところから出てきた劇団と違って、学閥のツテも無いですし、コネクションを広げるって結構大変なんですよ」

 演劇界にも学閥っていうのがあるの?

イリケン「学閥っていうほど大げさでも排他的でもないんですけど、やっぱり大学とかの演劇だと歴史があったり横の繋がりが広かったりっていうのがあって、注目されやすいのは事実ですね。まぁそういうのもあってチャンスを与えられる機会が多いんでしょうけど、でもその先は自分の力量で勝ち取って行かなきゃなんないんで、そっからは同じなんですが、そこまでの道は僕らより近いかも(苦笑)」

伊藤大輔「劇団も学閥もない僕はどうなるんだ(笑)」

イリケン「大輔はジプシー体質っていうことでいいじゃない。それにウチの公演の5日前まで他の公演に出てるくらい忙しいんだから」

伊藤大輔「まあ色々事情があって(笑)」


(稽古場風景)

 

 では最後に劇団月歌舎が目指す芝居とは。

座長「芝居を観た後、真っ直ぐ帰りたくなくなる芝居、それに尽きますね。
ちょっとお酒を飲みたくなる、誰かに話したくなる、歩きたくなる、なんていう芝居が作れたらいいですね。その日一晩だけでも凄い上機嫌になって貰えたら嬉しいですよ」

 では今回の公演『魔王』について。

イリケン「『魔王』っていう芝居はホントにちょっとしたエンタメ芝居なんです。大感動も大爆笑も無いと思いますけど、会社帰りやデートのついでに楽しいひとときを提供できると思います。これで演劇に興味を持って貰えたりしたらなお嬉しいです」

 

 仕事でベンチャービジネスの会社の急成長する時期にデザインの仕事で関わったことがある。今回劇団の話しを聞きながら、その会社の創設から急成長、変貌というプロセスととてもよく似た部分が多かった。
 演劇をやっているというと、やや世捨て人的な面もあるが(苦笑)、劇団を束ねるのはひじょうに社会的な行為かもしれない。こういう倫理観を持った裏方がいるところでこそ破天荒な演者が大暴れ出来る環境は出来るんではないでしょうか。
 月歌舎の座長も演出家も役者でもあります。当然その破天荒な部分も持っていますが、今回あえて裏方担当の私のインタビューではそこは突っ込まずに訊きました。そっちの方面はいずれ片岡君に訊いて貰いましょう。