★裏方に訊く 2009年9月
ゲスト
「らくごカフェ 代表・青木伸広」


【全3回 其の2

 「らくごカフェ」が出来るという噂を聞いたのは昨年の暮れでした。そのネーミングからすっかり下北沢とか青山とかちょっと小ジャレた街に出来るもんだと思ったら、意外にも神保町という街でした。全国的にも名の知れた古本屋街。どーして神保町? と思っていたのですが……。


 それでは「らくごカフェ」オープンに至るまでを今回は


この街の雰囲気が大好きなんですよ。
懐の深さが感じられて。

 そもそもどうして神保町に開こうと?

青木「まず僕が生まれて育った街だということ。何度か離れたこともありましたが、この店のすぐ裏の中学を出てますし、近所には幼なじみもいます。
まあ、この街の雰囲気が大好きなんですね。繁華街であり、ビジネス街でもあり、また学生街でもある。でも、繁華街独特の猥雑さがないんです。かといって健全なところかというと、怪しい古本屋さんもあるし、下町風情も残っているし……。とても懐の深さを感じるんですね。
そしてここは住所が神田神保町。神田と名のつくところで落語を聞ける場所がないってのは淋しいな〜と、地元のみんなで話していたんですよ」

 そうですね、落語には神田っていう地名は頻繁に出てきますね。

青木「今は出版社や学校もたくさんありまして、古本屋街としてつとに有名です。ここに来る人達はこの街に何か目的があって来るんですね。本とか楽器とかね。ただ何となく神保町には来ませんから、渋谷や新宿といった他の繁華街と違って。
それに喫茶店も多いんですよ。「さぼうる」や「ラドリオ」といった昔からの有名店も健在ですし。いろいろなカルチャーが交錯して、不思議な匂いがする街ってのは素敵ですよね」
 
 考えてみれば、選りすぐりの名作をロングラン上映する映画館の岩波ホールもあるし、名画座の神保町シアターも吉本の劇場も一昨年オープンしているし、落語が聞ける場所がないことが不自然なくらい。

青木「それから、交通が便利でしょ。ここは地下鉄が3線通ってますから、23区内なら、だいたいどこからでも仕事が終わって30分あれば着けるんですね」

 この店の場所はどうして決められたんですか?

青木「ます駅の出口から徒歩30秒という立地。客席が50席作れてカフェも出来て、エレベーター完備の物件っていう部分で考えたらここはぴったりですね。
ただカフェとしてはあり得ない物件ですよ。ビルの5階ですから、ぶらりとは入りづらい。じゃあなぜ1階の路面店にしなかったのかっていうことですが(笑)。街の騒音が落語の邪魔になってしまうのではないかという危惧がありましたから、いわば落語を最優先に考えた結果ですね」


いずれは神保町を落語の街にしてみたい
そんな野望もちょっとだけあります(笑)

青木「神保町のビッグ・イベントとして古書の祭典「古本まつり」は有名ですが、昨年、僕が神保町のタウンサイト「ナビブラ神保町」のライターをやらせていただいている関係で、公式目録「古本」の執筆のご依頼を受けたんです。それで、その目録を少し読み物としても面白くしたいと思って、明治大学出身で神保町に関わりが深いということで、スタッフ一同の総意で志の輔師匠にお願いしようということになりまして」

 落語と神保町がまた近づきましたね。

青木「そうですね。 いずれは神保町を落語の街にしてみたい、そんな野望もちょっとだけあります(笑) 。
そういう思いもあって『らくごカフェ』をオープンするほんの数カ月前ですが、“立川志の輔が古本屋を開いたら”っていうテーマで落語関係の本とか集めてブースを作り、落語会も開いたんですよ」


志の輔師匠のインタビューが載った古本市のパンフレット

 

 そうなると同じ高校時代に出会ったもう一人の立川談春師匠は?

青木「雑誌の落語の特集で談春師匠にインタビューする事になったんですよ。その時も20年振りくらいだったんですけど、昔のことをなんとなく憶えていて下さってて。僕は國學院高校の落研だったんですが、先輩がさだまさしなんです。談春師は真打昇進のお披露目にさだ先輩をお招きするほどの大ファンですので、そのことをお話し、OB会にもゲストという形での参加をお願いして……」

 縁が縁を呼びますね〜。

青木「その頃ちょうど母校の高校の落研部員がついにいなくなり、こりゃ何とかしなきゃってことで、OB会長のさだ先輩肝いりで落語会を母校でやる算段になったんですよ。昨年の7月でした。それを談春師匠に伝えたら、そういうことならボランティアで俺も出るよ、という次第になりまして」

 落研のOB会でこのメンツは凄すぎますよね! 2000人クラスのホールでもチケット秒殺でなくなりますよ。

青木「いや〜ホントですね(笑)。当日は談春師がゲストということは伏せていたのですが、なんだかんだで500人、講堂いっぱい集まりました。まずは歴代OBのなかから選りすぐりの3名が高座に上がって、それからさだ先輩が上がり、トリはやはり談春師にとっていただきました。私達がずうずうしくリクエストした噺をやって下さいまして。いや、素晴らしかったです」


『らくごカフェ』根多帳。記念すべき第一回の記録

 

談春師匠に、そんな儲かんないモノ作って
どうすんだよ、って言われて(笑)

 その頃にはもうらくごカフェの構想があったのですか?

青木「ええ、ちょうどその頃に、神保町に『らくごカフェ』を作るのが本決まりになったんです。で、その話を談春師匠にしたら、そんな儲かんないモノ作ってどうすんだよ、って言われて(笑)。
そして設備やらシステムやら、具体的な料金体系やらを、懇意にしていただいている金原亭馬吉さんや柳家三之助さんと話し合っていることを伝えたんです。はじめは、そんなもの儲からないからヤメロヤメロ、っておっしゃっていましたが、かなり具体的なことまで決まっているのがわかると。なんで俺にこんな話をするんだよ、そこまで話を聞いて出演しないって言ったら、俺が凄い悪人ってことになるだろう、って(大笑)。それで、ここは若手を応援する場所なので独演会ではなく一門会という形で、こけら落とし公演をしてくださることになりました」

 その会は続いているんですか?

青木「ええ、1年間限定で続けさせてもらっています。談春師匠からすれば、さだ先輩にお世話になってもとてもご本人には返せないから、後輩である私に遠くから返すってことだと思います。以後、チケットの販売方法等のいろいろアドバイスを下さったり、本当にお世話になりっぱなしです。カフェの昼間のお客さんが少しでも増えるように、談春一門会のチケットは店頭販売のみにして下さったり、助けていただきました。その辺のことはさだ先輩も今年出された本「美しい朝」で書いて下さってます」


左が青木伸広著「面白いほどよくわかる落語の名作100」 右がさだまさし著「美しい朝」 

 

 素晴らしいこけら落としも決まった。さぁ後は店作り。しかし美味しいコーヒーが飲めるカフェ、だけでは成り立ちません。気持ちよく落語や藝が楽しめる会場でなくてはなりません。次回はその店作りをじっくりと。

撮影・スズキマサミ 「らくごカフェ」にて