★裏方に訊く 2009年9月
ゲスト
「らくごカフェ 代表・青木伸広」


【全3回 其の3

 銀座の歌舞伎座が来年立て替えになります。新しい歌舞伎座には歌舞伎ミュージアムなども入る予定だそうです。落語や講談、浪曲なんかにも、歴史を学んだり楽しんだり出来るミュージアムなんてあってもよさそうなもの。
 さて『らくごカフェ』。落語ファンが集える店作りへの奮闘を今回は。最後に特別ゲストのお話も伺いました。


CDやDVD、落語関係の本も販売中。お宝も展示してます。


ここの店が潰れると
落語ブームが終わった
みたいに思われるから、
なんとかしてやんなきゃ、
って言われてます(笑)

 カフェを作るにあったての会場作りはどうされたんですか

青木「この会場がスケルトンで何もないときから柳家三之助さんと金原亭馬吉さんに入って貰って、舞台はどこに作って高さはどうするか、楽屋はどうするかとかいう、演者側からの意見を聞かせて貰いました。座ってやる落語だけではなく立ち藝もありますから、舞台の高さ等はいろいろ悩みました。内装も友達が手伝ってくれて、みんなで手作りしてます」

 『らくごカフェ』の目的には落語ファンが集える場所というのもありますが、店に置いてある本やCDも初心者からマニアまで楽しめるラインナップですよね。

青木「ワザオギという落語専門レーベルの皆様がらくごカフェのコンセプトに賛同してくれて、CDやDVDなど全商品を委託で置いてくれるって言って下さったり、コロンビアレコードの邦楽と落語担当のディレクターが来たら、偶然それが高校の同級生だったり(笑)。そいつは高校の時に勉強をあきらめて三味線を習いはじめて、三年の稽古で見事に芸大へ入ったっていう変わり種なんですけどね。その旧友がこういう場所で十数年ぶりに出会って協力してくれました。嬉しい限りですね」
 
 奇跡みたいな縁がまた繋がりましたね〜。。

青木「棚いっぱいの古書は、このビルに入ってる中野書店の中野智秋さんが落語に関する本を集めて下さいました。今ではお店の名物になっている、立川談志(たてかわ だんし)師匠が昔選挙に出た時の立て看板、なんていう珍品も探してきてくれたんですよ」


まさにお宝!

青木「桂伸治(かつら しんじ)師匠が持っていらしたお宝を寄贈して下さったり、写真家の橘蓮二(たちばな れんじ)さんからサイン入りの談春師と柳家三三(やなぎや さんざ)師の高座写真を頂いたり。ホントにみなさんが協力して下さって。例の目録『古本』でお世話になった日本書房の西秋さんは、明治期の落語番付を寄贈してくださいました。これは国立劇場に蔵されているような貴重な品です」

 お客さんや演者さんだけでなく関係者もこういう場を欲してたんですかね。

青木「若手の落語家さんたちからは、この店が潰れると落語ブームが終わったみたいに思われるから、なんとかしてやんなきゃ、って合い言葉のように言われてます(笑)」

 それはそうですね。

青木「この会場を使って若手の方にさまざまなチャレンジをしていただくのがひとつの目的なんですが、ベテランの師匠出演をお願いする『50人で聴く会』っていうのもやっているんですね。ふだんはもっと大きな会場でなさっている師匠方の高座を、小さくも贅沢なスペースで聴く会です。金原亭馬生(きんげんてい ばしょう)師匠と春風亭正朝(しゅんぷうてい しょうちょう)師匠、桂雀々(かつら じゃくじゃく)師匠に出て頂いたんですが、そういったここならではの企画も充実させていきたいですね」

 スケジュールを見ると落語以外の高座もあるんですね。

青木「 そうです。講談の方にも出ていただきたいなと思っていたら神田愛山(かんだあいざん)先生がふらっとここに来て下さって、独演会をやるとおっしゃって下さったり、手品のダーク広和(ひろかず)先生が『寄席ではできない手品の会』を開いてくださったり、この店が出来たことであたかも化学変化が起きたように、いろいろなことが動き始めてるように感じます。
だいたい去年の12月にカフェとしてプレオープンした日、最初のお客さんが桂文我(かつら ぶんが)師匠だったんですから。古本を探しに神保町にいらしていて、偶然見つけてくださったたみたいで、何ですか『らくごカフェ』って? いつ出来たんですか? って。私も、冗談みたいな話ですが、今日オープンで、師匠が初めてのお客様ですよ、って(笑)」

 それこそ出来過ぎたような話だ(笑)

青木「 だからスタッフとも話したんですよ、こりゃ何か特別な場所になりそうだって。で、始めてみて驚いたのはお客様の反応。こういうことろ作ってくれてありがとう、っておっしゃるんですよ。まさかカフェを作ってお礼を言われるなんて思ってもみなかったです。なんか過疎の村に来たお医者さんみたいですよね(笑)」

 落語会の赤ひげ先生じゃないですか(笑)。


マニアも唸る貴重な書籍も置いてあります。

青木「 それからもうひとつ驚いたのは、女性のお客さんが多いこと。女性で落語が好きっていうのは趣味としてはややマニアックなのでしょうか、音楽や映画等に比べて、落語会や寄席には友達を誘いづらいっておっしゃるんですね。でもカフェなら誘いやすいと。本当は寄席も落語会もそんなに敷居は高くないのですが、イメージですかね。
それから、ここなら落語好きな女性とお友達になれるかもしれない、っていうひとりでいらっしゃる女性のお客さんもいらっしゃって、ドンドン交流が広がっています。本当に嬉しいですね」

 ネットのバーチャルな繋がりではなく、リアルなコミュニティの場としての存在意義も大きいですね。

青木「そのなかで自分達が応援している若手の落語家さんの会を、自分達で作りたいんだけど『らくごカフェ』でやらせてもらえませんか、って言って下さるお客さんもいて……。
まさに僕が考えていた一番いい化学変化が起きてる感じですね。だから、もう僕がここでやりたいことはないんです。じわじわと、ゆっくりやっていけばいいと思っていましたが、予想以上のスピードで、想像していた以上の事が起きています。あとはここで皆さんが起こす多彩な化学変化を、一緒に楽しんで行けたらって思ってます」


『らくごカフェ』おすすめメニュー・中国工芸茶各700円(お茶菓子付き)

 

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『らくごカフェ』、
青木さんなら
やりかねないな〜と思いました(笑)

 この『らくごカフェ』創立に関わって下さった柳家三之助さんと金原亭馬吉さんにもお話を伺いました。


9月13日「第5回 馬吉と三之助の」らくごカフェにて(左・金原亭馬吉さん 右・柳家三之助さん)

 

 『らくごカフェ』を作る、っていう話を最初に聞かれてどうでした?

三之助「青木さんはずっと僕らの落語会を手がけて下さっていたので、人となりは知っていたんですね。だから驚きもしましたが、青木さんならやりかねないな〜と思いました(笑)。
もうだったら僕らに出来ることは何でも協力しなくちゃって思ったら、こっちも楽しくなっちゃいましてね」

馬吉「上手く行くのかしらって思いましたね始めは。心配でした。芸人が使ってくれる会場になるのか、お客さんは来てくれるのか。そしたらそんな心配に反して盛況で。嬉しいですね」

 会場作りにどんなアドバイスをされたんですか?

三之助「色々教えてくださいって言われたんで、ここは自分が使いやすいようにしちゃえって思ったんですね。芸人が使いづらいって思ったら、やっぱり使われる会場にはなりませんからね。
だからここがまだ真っ新な状況で、舞台の位置から高さ、照明の事まで膝をつき合わせて相談しました」

馬吉「僕らが使いやすいってことはお客さんにも聞きやすいってことになりますから」

 出来てみて、演じてみてこの会場はどうですか? 思った感じになりました?

三之助「この小さい会場ですからお客さんとの距離を縮めたい大事にしたい、っていう思いはあったんです。でも想定以上にその距離が近かったんです。
大きい会場や寄席とはまた違った緊張感があって、この会場独特の覚悟がいるんですね。心して舞台に上がらないといけない感じがするんです。落語を演じるわけですが、それ以外の自分の体調や機嫌であったり、そういう細かい情報がお客さんに全部伝わっちゃうんですね。
そしてその伝わってしまうっていうのを逆手にとって、落語の細かい機微をここで試してみる、大きい会場じゃ伝わらないこともじっくり試せるんですよ」

馬吉「やりやすいです。でも怖さも大きいんです。お客さんの呼吸がもろに伝わってくるんですね。特にここは初めて落語を聞かれるお客さんもよくいらっしゃって下さって、そういう方の反応って怖いんですけれど凄く勉強になるんです。
それにキャパシティ的にも無理なく毎月勉強会が開けるっていう会場はそうないですし。待ち望んでいた会場になりました」

 この会場でしか味わえないこと、この会場で試してみたいことはありますか。

三之助「ここはお客さんに甘えられるんですよ。甘えさせて下さい、やらせてみて下さいっていうのも伝わっていくんです。そしてお客さんが、いいよ、何でもやってみなっていう感じも戻ってくるんですね。お客さんと心が通うっていうこの感じは独特です」

馬吉「根多下ろしって言うんですが、初めてやる噺をここでどんどん掛けていきたいですね。ここでは初めてだからっていう怖さ以上のものを感じるんで、もう稽古するしかないですね」

 今日の会も大入りでしたし、ホントに賑わってますよね。

馬吉「この盛況は青木さんのがんばりと熱意のたまものですよ。それに我々が応えていかなくてどうする、っていう思いは強く持ってます」

 

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 私が中学生の時に田舎で観たジャイアンツの二軍戦、三番が篠塚、四番が中畑でした。その翌年、その二人は一軍で大活躍。これはもの凄く嬉しかった。俺は二軍にいるときからこの選手見てるんだぜ〜!てな感じで。  『らくごカフェ』で前座さんや二ツ目さんの落語を聞いて、この人は面白い、って思ったら、一生見続けて行けるんです。野球選手には引退がありますが、落語家さんにはほとんどないですからね。その落語家さんの成長と成熟をずっと楽しめるんです。

 それから初めて落語を聞くと、わからないことはいっぱいあります。私も色々不思議に思ったことはありました。噺の内容によって着物の色は変えるんだろうか、座布団は紫じゃなきゃダメなのか? 噺はみんな江戸時代のものなの? とか。
 そんな疑問は青木さんに聞けば全部答えて下さるでしょう。面白い噺を聞いたのに名前がわからないから教えて、とか何でも大丈夫、だと思います(笑)。

 今回取材させて頂き、縁がここまで繋がるものか、という不思議さを感じましたが、最後に馬吉さんが言われたように、青木さんのがんばりと熱意が縁をたぐり寄せたのだと思います。
 『らくごカフェ』是非一度訪れてみて下さい。そして藝というものに縁が繋がれば、これ幸いにございます

 

撮影・スズキマサミ 「らくごカフェ」にて

 


次回、江戸太神楽の仙若さん、花仙さん 登場。
掲載は10月5日(月)