★裏方に訊く 2009年11月
ゲスト
「新文芸坐 支配人・矢田庸一郎」


【全2回 其の2

 私が映画って面白い、って思い始めた映画の原風景と呼ぶべき作品は、高校2年の時に見た柳町光男監督の『さらば愛しき大地』。それまでさほど映画には興味など無かったのだが町のあちこちに貼られたポスターを見て、なぜだか見なければいけない、と思ってしまった。暗く救いのない物語りで人間の欲望が剥き出しになったような作品。衝撃的でそれが私の映画の礎になった。映画好きなら誰でもそういう作品は持っていると思います。
 矢田支配人のインタビュー2回目。そのあたりの話しから伺っていきましょう。

 

 

ある意味『戦艦ポチョムキン』を
選んでしまったのは
とても不幸だと思いますよ

 矢田さんの映画体験もお聞きしたいのですが、映画の原風景となったような作品ってございますか?

矢田「中学生の時に見た『戦艦ポチョムキン』ですかね」

 なぜその作品に惹かれたんですか

矢田「なぜでしょうね〜(笑)。
私は九州生まれなんですが、その当時は地方にも古い名作を上映する名画座みたいな映画館があったんですね。ハリウッド映画とか大ヒット作品とかはあまり見た記憶がないですね。なぜかはわからないんですが。まぁ要するに頭でっかちだったんでしょうね」

 (笑)

矢田「ある意味『戦艦ポチョムキン』を選んでしまったのはとても不幸だと思いますよ。歪んでるじゃないですか(笑)」

 『戦艦ポチョムキン』に呼ばれてしまったんですね。

矢田「そんなようなものかもしれません」

『戦艦ポチョムキン』
第1次ロシア革命20周年記念として1925年に製作。
セルゲイ・エイゼンシュテイン監督によるソビエト連邦の無声映画。

 

 そういう映画鑑賞の始まり方を経てどうして文芸坐に入られたんでしょう。

矢田「映画を見に来たらアルバイト募集の貼り紙があって応募しました」

 それまで映画館で働きたいっていう思いがあったんですか。

矢田「そうですね、映画館というより映画関係の仕事がしたいっていうのがありました」

 映画を作る方に行こうとは思われなかったんでしょうか。

矢田「そういうのもありましたけど、たまたま募集を発見したのが撮影所ではなくて映画館だった、っていう巡り合わせもあるでしょうね」

 

 

再開当時は
そんなに大きな劇場作って大丈夫か、
って言われました(笑)

 今日本映画はとても賑わいを増している感じがしますが。

矢田「昨年邦画が洋画の興行成績を抜きました」

 それは邦画が伸びてきたっていうことでしょうか。

矢田「そうですね。それこそテレビの延長線上の映画の『花より男子』とかが興行収益77億円も上げてますし、アニメで『崖の上のポニョ』がありましたし」

 アジア映画、とくに韓国映画が伸びてきてる感じがするんですが。

矢田「一時期の韓流ブームは終わった気がします。でも前から韓国映画自体一定のファンはいましたから、もう入らなくなったって言うより元に戻ったっていう感じですかね」

 昨年からの景気悪化は新文芸坐さん観客動員数に影響はありますか。

矢田「あまり関係はないみたいです」
 
 昔の文芸坐時代の観客動員数は変わりましたか。

矢田「昔は文芸坐と文芸坐地下の2劇場で、今よりもはるかに客席数は多いんですよ。それに見合う動員が昔はあったっていうことだったんですけど、閉館間際は動員が落ちていました。今は266席ですが、再開当時はそんなに大きな劇場作って大丈夫かって言われました(笑)。
でも動員数で言ったら新文芸坐になって初めの3年ぐらいはひじょうに厳しかったんです。どん底でした。今は以前と変わらない感じに戻りましたが」

 それは何か企画とかが当たったとか、特別な何かがあったからなんですか?

矢田「結局3年休んでいる間に離れていったお客さんが、戻ってくるのに3年かかったっていうことでしょうね。そんなにかかると思わなかったんですけどね。
初めの3年も日々の営業努力をするってのはあたりまえで一所懸命やってましたけれど、特別何か新しいことをやって根本的なスタイルを変えるようなことは一切しなかったんです。
何も変えずにずーっとこのスタイルを貫いた、とも言えるかもしれません」


 調べたところ、東京23区内では映画上映施設が98館でスクリーン数は265。その中で新文芸坐が含まれる250〜300席というスクリーン数は18。一番多いのが100〜150席のスクリーン数で74。ちなみに最大は1064席の新宿ミラノ1で1064席。最小は渋谷のUPLINK X 、ライズXと、下北沢の短編映画館TOLLYWOODでそれぞれ40席。
 100〜200席が多い名画座と呼ばれる劇場では新文芸坐はやや大きい劇場になります。

【対象上映施設】TOHOシネマズ有楽座, シネカノン有楽町2丁目, シネカノン有楽町1丁目, TOHOシネマズ日劇, 丸の内ピカデリー, 丸の内ルーブル, 有楽町スバル座, TOHOシネマズシャンテ, TOHOシネマズみゆき座, TOHOシネマズスカラ座, 銀座テアトルシネマ, 銀座シネパトス, シネスイッチ銀座, 丸の内TOEI, 東劇, シアターN渋谷, シネマヴェーラ渋谷, シネセゾン渋谷, シネフロント, ル・シネマ, シアター・イメージフォーラム, ユーロスペース, UPLINK X, ヒューマントラストシネマ渋谷, シネクイント, 渋谷東急, 渋東シネタワー, 渋谷TOEI(1), 渋谷TOEI(2), シネマライズ, ライズX, シネマ・アンジェリカ, 渋谷シアターTSUTAYA, 渋谷HUMAXシネマ, 渋谷シネパレス, 新宿東亜興行チェーン, 新宿TOKYU MILANOビル, シネマスクエアとうきゅう, 新宿武蔵野館, K’s cinema, 新宿国際名画座, 新宿国際劇場, シネマート新宿, 新宿バルト9, 新宿ピカデリー, 角川シネマ新宿, シネマート新宿, シネ・リーブル池袋, 池袋テアトルダイヤ, 新文芸坐, シネマサンシャイン池袋, 池袋シネマ・ロサ, 池袋HUMAXシネマズ, 池袋東急, シネロマン池袋, TOHOシネマズ六本木ヒルズ, シネマート六本木, 恵比寿ガーデンシネマ, 東京都写真美術館ホール, 品川プリンスシネマ, シネマメディアージュ, 神保町シアター, 上野東急, 上野オークラ, 上野地下特選劇場, 浅草中映, 浅草名画座, 浅草新劇場, 浅草世界館, 浅草シネマ, ユナイテッド・シネマ豊洲, ポレポレ東中野, ラピュタ阿佐ケ谷, 短編映画館TOLLYWOOD, キネカ大森, 早稲田松竹, ギンレイホール, 飯田橋くらら, 新橋文化, 新橋ロマン, 目黒シネマ, 三軒茶屋シネマ, 三軒茶屋中央, 下高井戸シネマ, TOHOシネマズ錦糸町, 楽天地シネマズ錦糸町, シネマサンシャイン平和島, テアトル蒲田, 蒲田宝塚船堀シネパル, MOVIX亀有, TOHOシネマズ西新井, 王子シネマ, 109シネマズ木場, T・ジョイ大泉, ユナイテッド・シネマとしまえん, ワーナー・マイカル・シネマズ板橋, アテネ・フランセ文化センター, 東京国立近代美術館フィルムセンター(2009年11月1日現在)

 

 あと新文芸坐さんは他の映画館さんにはないことですが映画以外の興行もやってらっしゃいますよね。文芸坐の頃は音楽のライブなどにも私はよく足を運んだんですが。

矢田「そうですね、今のところは落語会をやっています。以前は立川志らくさんが映画を落語にするシネマ落語を定期開催していただきましたし、今年からは「新文芸坐落語会」というのをやっていて今月の19日は立川志の輔さんになどに出演していただきます。これは続けていこうと思っています」

 都内には他にも名画座と呼ばれる映画館がありますが、繋がりなどはあるのでしょうか。

矢田「特別そういったことはないです。でも最近ちょっとそういうことについて考えることがあったんです。
昔から残ってる名画座はそれぞれ特色とかあると思うんですよ。そういう特異性を活かしながら時には結集して何か仕掛けられないかなって思うんですね。今だって錦之介の特集をやれば全国からお客さんが来て下さるわけですよ。そういうちゃんとした支持層があるのに広がって行かないのは、マスコミで取り上げられらないからっていうのもあるじゃないですか。取り上げられるのは新作映画ばかりですし。
まだ具体的に動いているわけじゃないんですけど、集まって何か仕掛けたり訴えたりすることに意義はあるんじゃないかって、最近考え始めてるんですよ」

 



チラシや映画関係の書籍も充実の品揃え


 私が映画館で映画を見る理由には、映画館が好きっていうのもあります。チラシがたくさん置いてあったり、珍しいポスターが貼ってあったり、そういう映画に対する思いが強い映画館が好き。最近のシネコンも椅子はゆったりしていて見やすいけれど、自分の所で上映するチラシしか置いてないし、ゆっくり余韻に浸る雰囲気もなく、何か味気ないのです。
 『新文芸坐』には、また映画を見たくなるそういう連鎖に持ち込む味わいがあります。何も変えなかったから続いてきた、そこにある確かな映画に対する思いみたいなものが溢れているように思うのです。テレビドラマの最終回、ではない映画を探しに、名画座に行ってみませんか?

撮影・スズキマサミ