★裏方に訊く 2010年2月
ゲスト
「あるぽらん89 マスター・佐々木」


【全3回 其の2

 首都圏ではオフィスや店舗の空き物件が埋まらず、オーナー側が入居審査を緩めたのがきっかけでライブハウスが増えている。オヤジバンドや団塊の世代のフォーク熱復活で、都心のライブハウスには中高年が集いつつ歌いつつ、なのだ。
 若いバンドマンとは違い、店の前でたむろして近所から苦情が出ることなどもないのでオーナーも安心ということもあるそうだ。
 実際ライブハウスはやり方次第で儲かるものらしい。出演者のノルマひとバンド2000円が20枚として4バンドで80枚で160000円。その他にドリンク代も入るとなればそこそこオイシイ商売。店のコンセプトを問うたなら“安定収入”となるのか。
 
 さて佐々木さんの2回目。今回はお店で行われているイベントについてあれこれ伺いました。

あるぽらん

お客さんが面白がってることを
紹介してくれたり、
っていう形で広がってます。
 

 始めは普通の飲み屋さんとして開店されたんでしょうか?

佐々木「飲み屋なんて酒さえ置いていれば何とかなると思っていたんですけど(笑)、そういうわけにもいかずに酒や料理の作り方を勉強しながら1年くらいたって、常連さんが出来てきたんですね。そういう人達が、ここで俺に歌わせろとか、ここで誰それの歌が聴きたいから呼んでくる、とかなったわけですね、そっからなし崩し的に……(苦笑)」

 そこで催されるイベントに関して、佐々木さんご自身は方向性的な物を指し示したりされたんですか。

佐々木「いやそういうのは別にないですね。自分の好き嫌いっていうのはありますけど、その好き嫌いにはあまり技術的なことはこだわりはなくて、強いて言えば人柄重視(笑)」

 (笑)

佐々木「人が人呼ぶ形で、演劇やってる役者がこの空間で面白いことが出来そうだって言って芝居やったり、知り合いの落語家を呼んでやらせたいとか、無声映画もやれないかとか、とか言われて、色んなジャンルを演るようになりましたね。
自分が呼んだり発掘したりっていうより、お客さんが面白がってることを紹介してくれたり、っていう形で広がってます。昨年は初物として講釈師の会を行って好評でした。
あとは客さんが海外に行った報告会とかもやりましたね。プロジェクターで写真を投影したりしながら」

 海外旅行の報告会とか、いかにも地元密着ですね。

佐々木「全てがプロっぽい仕様のイベントでなくてもいいんです。あくまでお客さんが楽しむっていうのが前提ですから」

 ではそのプロっぽいイベントの方について伺いたいのですが、音楽のライブがメインになるんでしょうか。

佐々木「今は演劇や演芸なんかの方が多くなりましたね。
ライブでは豊田勇造さんっていうフォークシンガーの方はもう20年近く出て下さってます。還暦迎えて益々元気でやられてます。生前の高田渡さんも出ていただいたことがあります。
あとはウチでレーベル作ってCDを出した五十嵐正史さんも長いですね」

 豊田勇造さんは昨年京都で「豊田勇造60歳6時間60曲フリーコンサート」を開催されるなど、知る人ぞ知るフォークシンガー。私が中学生の頃、30年前にはもうすでに伝説のフォークシンガーと呼ばれていた方である。

 こういう方も出演されたんですか?(壁に演歌歌手のサイン色紙が貼られてた!)

佐々木「ある日お客さんが店の有線でかかっていたレゲエを聞きながら、いい音楽流してるね、って言うんですよ。で、これもいいけどたまには演歌も聴いてみないかって言ってCDを差し出すんですよ。で、そのジャケットに写ってるのは手渡している本人だった(笑)」

 (笑)営業だったんですか?

佐々木「何か近所の店でやってるフォークのライブに飛び入りしたらうけたらしくて、ここでもどうかな〜? っていう感じだったんです」

 じゃあここでもライブを?

佐々木「すごく楽しくて、面白い人だったし、歌もうまいので、やるならお客さんも集まってもらいたいんだけど、その土壌がウチにはないからまずそっから始めなきゃいけない。
カラオケで歌われてもここはスナックじゃないんでね。何かいい方法があればって思うんですけど」

 

イベントはここに集まって来る人達と
作り上げるもの

 演劇も行っているとおっしゃられましたが、この空間をどう使われるんでしょう?

佐々木「舞台と言ってもこの大きさ(ほぼ一畳)ですからね。そこで演って見せる訳にはいかないんで、店全体を使ってやりますね。
演劇をやるようになったのは、昔から知り合いだった演劇人が居酒屋の設定の芝居を書いたからここでやらせてくれ、というところから始まっていてるんで、カウンターも客席も店自体が舞台なんですよ」

あるぽらん 劇団チャリカルキ

演劇公演「今夜、コノギシさんが待つ店で」劇団チャリカルキ
(写真は劇団様より提供いただきました)

あるぽらん 劇団チャリカルキ

もうお客さんも舞台美術の一つですね。

佐々木「そんな感じ、お客さんも巻き込んでやる感じですね。
この演劇がけっこう評判良くて、毎年新作を作って近所の似たような酒場でもやるようになりました」

 同じ芝居を店を替えて?

佐々木「そうですね。同じ芝居でも店毎に違う様相になりますから」

 他にはこの藝能往來を一緒にやってる弁士の片岡君が出てる無声映画鑑賞会もありますが。

佐々木「無声映画とかは昔観たことがあるっていうお年寄りや若い人まで、けっこう毎回集まるイベントになってますね。とりあえずやってみるくらいの感じで1回やったら、お客さんから次はいつ? って訊かれて(笑)、それからもう7,8年続いてます。僕自身が面白さにハマって行ったのもありますし。無声映画に関わらず続いているイベントはそのパターンが多いです」

 演歌はさておいてですが、ここで歌わせて、芝居させて、っていう売り込みはあるんですか?

佐々木「あります。ただ基本は飲み屋ですから、ライブハウスや劇場みたいに頻繁にイベントを行うような体制にはなってないし、もともとお客さんの要望で始めたみたいなところがありますから、店のお客さん、地元のお客さん、そしてイベントを見に来る外のお客さん、それが巧い具合にみんな楽しめるバランスを取りたいっていうのがあって、なかなか要望に応えられないんですよ。
イベントはここに集まって来る人達と作り上げるものだと思っているので」

 ここから生まれたり育ったりするイベントなり人なり、20年の間にはありましたか。

佐々木「ここでやっていた人が大舞台に上がるようになったり、巧くなっていくのをみてきたり、っていう楽しみはありますね。
あんまりこちらから仕掛けて育てるみたいなことはないんですけど、無声映画の伴奏にさっき話に出たミュージシャンの五十嵐さんが参加してみたり、そういう出会が生まれるっていうのは、普通の劇場的な場所ではないこの店ならではのことかもしれません」

 そうですね。こういう集える場所であり発表できる場でもあって、ジャンルが限定されていない場所ってなかなかないですからね。

佐々木「お客さんにしても、劇場に芝居を観に行くというより、普段酒を飲んでる店で何か面白いことをやるから観てみよう、っていう敷居の低いところで足を運ぶきっかけになるかもしれないじゃないですか。それで興味を持ったら追っかけて行って貰って良いわけですから」

 そう言う意味でもジャンルが限定されていないこの店のイベントは有意義ですね。

佐々木「今はやっぱり個人で楽しむ時代。ひと昔前はあの映画観た、あの小説読んだ、っていう会話で盛り上がれたじゃないですか。好きな物はそれぞれみんな持っていても、何かしら共通の話題がありましたよね。
でも今はどっかで演劇好きは演劇だけ、映画好きは映画だけ、っていう感じがするんですね。そう言う人達にもここで気軽にいろんなものに出会って貰えれば」

 それもある種のプロデュースですね

佐々木「いや〜そんな大げさなもんじゃなくて、僕は飲み屋の親父でこの小屋の番人。だから決して劇場をやるとか、プロデュースをするとかいう専門家にはなりたくないんですよ。あくまでここに集まってくるお客さん同士の繋がりだったりイベント作りだったり、そういうものの交通整理係でありたいんです」

 

 楽しめる場所を作る。それが出発点。そしてそこをずっと守ってる。あるぽらんの心地よさはそこにあるのではないだろうか。
 で、そんな場所には美味しものがある。というわけでお店の一押しメニュー。

あるぽらん

「沖縄シークワーサー酎」、「ゴーヤチャンプル」、
「自家製アンチョビとクラッカー」、「ミャンマー風チキンカレー」







 

 

 

 

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