★裏方に訊く 2010年2月
ゲスト
「あるぽらん89 マスター・佐々木」


【全3回 其の3

 以前撮影の仕事で地方に行ったとき、文化財に指定された趣のある昔の建物に案内された。市の観光課の人がこの建物の活用方法がないとか言ってたので、ここで狂言とか能とかやったら絵になりますね、きっと話題にもなりますよ、と言う話をしたら、能も狂言も歌舞伎もまったくわからない人だった。まあ明確にそれを説明できる人間は少なくて当然なのだが、観光課なんだからさ〜、ちっとは勉強しろよ〜、と思ったのだ。観光課に配属されて、何か活用方法考えろ、とか命令されて、一応考えてみたけど……、みたいな感じだった。
 別に藝能興行だけを勧めている訳ではない。そこを使っていかに楽しいことが出来るか、という部分に立てばいろんな可能性が浮かんでくると思うのだが。予算ありき、前例ありき、でものを考え始めるたらつまらんだけじゃないのだろうか。ま、お役所仕事とはそんなものなのだろうが……。

あるぽらん

でもまあ飲んでる席での話だから、
って思ってたら後日電話が来て……。
 

 お店の雰囲気とは一味違う登山してる写真とかも貼ってありますが。

佐々木「それもイベントのうちですね。
店だけじゃなくて花見とか山登りとかそういうのもあります」

 登山はもともとお好きだったんですか?

佐々木「いや〜全く。お客さんが山登りは面白いよって言うんで、楽しそうですね僕も行ってみようかな、ってうっかり言ってしまったら、靴を買う話になってしまって、買ってしまったら減価償却程度は使わないともったいないって思ってね(笑)」

 それでハマってしまった。

佐々木「やってるうちに体にもいいし、これは面白いもんだぞって思ってしまうようになっちゃいましたね」

 イベントはホントにお客さんから自発的に生まれてますね。

佐々木「そういうイベントを出張というか地方でやったこともあるんですよ。
店のお客さんで飛騨高山からいらっしゃった方がいて、映画が好きだっていう話になったので無声映画の事を話したら、是非観たい、地元の町おこしイベントで是非やりたい、じゃあ是非やりましょう、っていう話になったんですよ。
でもまあ飲んでる席での話だから、って思ってたら電話が来て、先日の件ですけども……って言われて、憶えてたのか〜って(笑)」

 登山といい軽〜いノリの発言が思わぬ方向に(笑)

佐々木「やるとなったらきちんとやりたいんで、弁士の片岡一郎さんと彼の妹弟子の桜井麻美さんに出演お願いして、作品も用意していただいて、じゃあミュージシャンも連れて行きたいって思って五十嵐正史さんのバンドに声を掛けたら、是非やりますと言って貰って、急きょ3泊4日の飛騨高山の無声映画ライブツアーが決定したんですよ」

 大所帯ですね。

佐々木「そしたら貧乏遠征ですから車もいるじゃないですか。どうしようと思っていたら店のお客さんで、喜んで会社休んで運転手やります、っていう人がいて(笑)」

 素晴らしい人間関係(笑)

佐々木「たまたま飛騨高山にウチと同じような知り合いの店があったんで、ついでだから五十嵐さんのライブもやらせて貰ってっていう」

 敏腕プロモーターじゃないですか!

佐々木「この公演はホントに地元の人達が熱心に手伝って下さって助かりました。みんなイベントとして楽しんでくれて。
東京より地方の方が元気かもしれませんね。自分達で作るっていう楽しみとか、そういうものは東京じゃシステムが出来上がってる分なくなってしまってるのかもしれないですし」

 そういう地方のお店とかとは連携みたいなものはあるんですか?

佐々木「店のお客さんだったり出演して貰った人を介して、沖縄から東北まで何軒かありますね。なかなか僕は行き来できないですけど、ミュ−ジシャンを紹介しあったりとか、時々連絡しあっています」

あるぽらん 片岡一郎 桜井麻美

大盛況で、活弁なのにアンコールまでかかったそうである
写真は弁士の桜井麻美と片岡一郎、音楽担当の五十嵐正史とソウルブラザーズ
写真提供・桜井麻美

 

そこに行くのに
何の意味があるとか誰も問わずに、
阿佐ヶ谷から100人の参加者が出た(笑)

佐々木「地方って言えば随分昔ですが、店のお客に誘われて長野の過疎の村で小学校の廃校を使ってやっている宿に泊まりに行ったことがあるんです。で、その宿の親父さんと飲んでいると話が盛り上がって、ライブというのをここで一度でいいからやってみたいな〜って言うんですよ。で、そうですね〜、って言っちゃたんですね。知り合いもいますよ、とか言っちゃって、内心マズイな〜とか思いながら(苦笑)」

 いつものパターンですね(笑)

佐々木「そしたらすぐに手紙が来て、ホントにライブやれますか、って書かれてて」

 もう引くに引けない。

佐々木「まだ僕も若かったんでしょ、店のお客さんに常連なら参加しろ、とか無謀なこと言ったらみんな何故かのってきて、それが近所の店にも飛び火して、この阿佐ヶ谷から100人の参加者が出た(笑)。そこに行くのに何の意味があるとか誰も問わずに、訳のわからない勢いで行くことになっちゃって」

 そこは観光地じゃないんですよね。

佐々木「そうですね。その廃校跡の宿より上のほうには人は住んでいないようなところです。で、その宿は20人しか泊まれないんですよ。そしたら何ヶ月もかかってたった一人で河原を整地して、キャンプ場にしてくれていて
それでイベントには村人は全員参加。全員でも100人なんですけど、お年よりにライブだイベントだって言ってもわからないから、その日は村の祭りってことになってました」

 村の祭りにに東京から100人の客って(笑)。

佐々木「東京から歌手が来るってことになってて、なんかエライことになってきな〜、って思ってたら、教育委員長とかから名刺を渡されて宜しくお願いしますって言われて、新聞記者まで来ちゃって、こりゃとんでもないことになったぞって」

 連れて行ったのは演歌歌手じゃないですよね。

佐々木「出演者は斉藤哲夫さん、南條倖司さん、それと若い歌い手、うわさを聞いた長野の地元にスタジオを構えてるミュージシャンも参加してくれました。楽しかったですよ〜」

 村の人達は驚いたでしょうね。

佐々木「前日に村に行くときに、その村唯一の交通手段のバスだったんですけど、その運転手さんが楽しみにしてるけど、バスが最終8時だから観に行けないって言ってたんですよ。
そしたら当日になったら7時にその運転手さん会場にいるんです。どうしたんですか、って聞いたら、バスを使う村人は決まってるから、全員に電話して今日は7時までにってことにしたって。それに村人は全員ここに来てるしって(笑)」

 村の一大事だ(笑)

佐々木「その2,3年後だったでしょうか、楽しかったからもう1回やろう、と宿の親父さんから連絡もらって第2回目をやることになったんです。さすが2回目なんで僕らも宿も少し手馴れた感じで進められましたね。1997年の夏の終わり頃だったと思います。
そのときに現地で聞いたんですが、そのイベントをやるちょっと前に、村の青年団が中心になって村の麓の街でコンサートを交えた大掛りな町おこしベントを開催したらしいんですよ。へえ、すごいじゃん、って思いましたよ。
僕たちのやったイベントが現地の若者たちに少しは刺激を与えられたのかななんて……ちょっとしょってますかね(笑)」 

 そのイベントで何かを見つけたんでしょうね。

佐々木「そんな大げさなことやったわけじゃじゃないけど(笑)。
でもまあ僕らのやってるイベントは、もちろん音楽なり演劇なりを伝えたいっていう理念はありますけど、その村でやったときは自分たちの楽しみのためにやったにすぎなかったんですね。でもそれを観て楽しそうだから今度は自分達でやってみたいって思ってもらったらそれは嬉しいことだなって。
やっぱりそういう喜びみたいな物から始まらないと、義務的なイベントにしかならないし、なかなか次に続かないような気がしますからね」 

 押しつけられたシステムじゃ発展しようがないですものね。

佐々木「イベントでも店でもそうですけど、システムありきコンセプトありきで作られるより、そこに人間がいて居心地が合う人間同士のちょっとした努力でもっと居心地が良くなる空間を作り上げていく、そういうのがいいんじゃないかな。
そういう空間が出来ていく中で、方向性が見えてきたら巧く交通整理をして良い流れを作るのが僕の役目かな」

あるぽらん 片岡一郎 桜井麻美

1997年8月23日 高遠 ONE LOVE コンサート
写真提供・五十嵐正史

 

ちょっと話は戻るんですが、店の看板に「中央線的酒場」って書かれてますけど、どういう意味合いがあってつけたんですか?

佐々木「そういうのに意味をもっちゃいけない(笑)。なんとなくそんなのはこの辺の人やお客さんにはわかる雰囲気だったりするんだけど、それを明確にしてしまったら、それだけの意味になっちゃうし、そうあらねばいけない、みたいになるでしょ」

 となると「あるぽらん」ってどんな意味ですかって聞いても同じですね。

佐々木「そう……かな(笑)」

 

 

 下町の居酒屋で庶民と酒を酌み交わす総理大臣、という記事が週刊誌に載ったのは数ヶ月前。しかし実状は店の中はカメラマンと記者でごったがえし、それに混じって庶民の変装したSPの客がいる中で、お母様から億単位のお小遣いを貰っていた庶民とは程多いおぼっちゃまが、記者の注文通りにこやかにポーズを取って写真に収まっているだけの絵面であった(笑)。
 それはいわゆる下町の飲み屋は庶民の憩いの場である、というマーケティングがあって、こに行けば総理も庶民の仲間入り、というコンセプトにそってのプロデュース戦略なのだろう。でもそんな本末転倒な茶番劇には騙されないのだ(笑)。

 しかし、マーケティングやらコンセプトが先に来て結局立ちゆかなくなるのは、この茶番劇だけじゃなくて、世の中結構ある気がします、というか多いです。
 作る喜び、伝える喜び、感じる喜び、使う喜び、分かち合う喜び、それがないのにマーケティングもコンセプトもないのだ。
 私もそういう現場においてメシを食ってる人間として、それを忘れちゃイカンとつくづく考えさせられた取材でした。
 こんな文章で締めると、そんな難しい話じゃないよ、と佐々木さんに笑われそう(苦笑)。

 

あるぽらん

「ミャンマー風チキンカレー」旨いぞ〜!