★裏方に訊く 2011年4月
ゲスト
「芸術家のくすり箱」


【全2回 其の2

to R mansionの松元さんは小学生からバレエを習い、数々のバレエ公演やショウに出演し、現在はto R mansionで月に10公演近く活動中。ケガとリハビリを体験した演者代表で参加して頂きました。

芸術家のくすり箱

写真左より 松元治子さん(to R mansion)/活動写真弁士・片岡一郎/福井さん/小曽根さん


自分で自分の可能性を
閉ざしてしまうことになりかねない。

松元「私も経験上思うんですけれど、演じる側の人間としてはケガを実際してみないと、ケアの大切さはわからないんですね。
私はヘルニアをやって、何度も治療して舞台やってまた痛くなって治療して休んでの繰り返しをしていくのが嫌になって、いろんなトレーニングや治療法を試しているうちにピラティスに出会い、よりよく身体の仕組みを知るためにトレーナーの資格を取ったりしたんです。
もっと自分の体をきちんと知りたい、この痛みがどこから来るのか知らなきゃいけないって思って学んだんですけど、こんな大事なことをずっと知らないままやってきたのかー、もっと早くやればよかって実感したんですね。でもこれが二十歳の頃の自分ならきっと興味はわからなかったんだろうなって。そこが凄く難しいところですね」

 松元さんは子供の頃からバレエをやってらしたんですよね? そういったスクールではケアのことを教えたりはしないのですか?

松元「全然ですね(笑)」

福井「例えば日本で言うとダンスを学べる大学って数えるぐらいしかないんですけど、アメリカでは500以上あってそこでは当然のように解剖学など体の基礎知識を学ぶ機会があるんですね」

小曽根「職業としてダンスを学ぶとなると、そこまでやらなければいけないんですけど、日本ではまだ趣味の範囲でしか捉えられていない、好きだからがんばる、の範疇をでないんです」

福井「音楽の大学は日本にもたくさんありますし、音楽家は職業として成り立っている方も多いですが、やはりヘルスケアを必須科目の中に入れているかというと、そうでもない」

 日本の藝能に携わる方って、退廃を好む部分があるじゃないですか。貧しい中で必死にがんばっているとか、苦労しながらやるのが好きな人とか(笑)

松元「ダンスの舞台で、本番直前に足の指を骨折したダンサーがそのまま舞台で踊るなんて珍しいことではないですからね」

小曽根「それは凄いなって思いますけど、その状態でがんばっても次の舞台にまた上がれる保証は何もないですからね。
まずは舞台に上がることがすべてになってしまっていて、ケガを隠さなきゃならない、もちろん病院にも行かない、結果パフォーマンスの質も下がるし、長く続けることも出来ない。自分で自分の可能性を閉ざしてしまうことになりかねないんですけどね」

福井「がんばることは大事ですし、舞台で最高のパフォーマンスをすることが一番ですけども、ケガをしながらでも続けなくちゃいけない、先生も先輩もそうしてきたから、っていう循環を、どこかで、ケガをしないで続けていける、みんなもそうしてきたから、っていう循環に変えていかなくちゃいけないんです」

小曽根「ケアすることやトレーニングすることでその人の能力をもっと伸ばせたり、もっと長く活躍できたりするっていうことを知って欲しいと思いますね。
ケアやトレーニングっていうには日常の中で行っていく部分でもありますから、小さい頃からお稽古の中に当たり前にヘルスケアやトレーニングが組み込まれていくのがとても大きな願いです」

福井「ケガをしてしまった場合でも、適切な処置をして、適切な治療とリハビリをすれば、また活躍できる、っていう姿を伝えていくのも私たちの役目だと思います」

 そういった部分でのサポート体制はまだ全然成り立っていないんですね。

福井「欧米で芸術医学の学会が出来たのが80年代半ばなので、まだ30年程度の歴史なんですね。だからがんばって追いつかないと(笑)」

 一番そういった活動が進んでいるのはどの国なんでしょう?

福井「カナダのトロントの市立病院の一角にアーティスツ・ヘルスセンターがあって、例えば診察のときに先生の前で踊ったり演奏したり実演スタジオがあって、その実際の動きの中からケガの原因を探っていったりすることもできるんですね。やはりそういう専門の場所があるとデータの蓄積もなされますし、経験も共有できますし。妄想的な思いではありますけれども、そういう場が日本にも出来ればなと思っています」

 

to R mansion 松元治子

松元「私は個人的に探してトレーニングのパーソナルレッスンなどを受けたりしているのですが、そういったレッスンなどもこちらの会員になれば紹介をしてもらえるのでしょうか?」

小曽根「はい。会員の方には割引がきく場合もあります」

松元「嬉しいですね(笑)。実際パーソナルレッスンになると高額になりますから続けるのが難しくなるんですよね」

小曽根「先生によって割引の形はいろいろですが、そういったメリットもありますので是非会員に(笑)」

 

 

組織として取り組んでいく姿勢が出来れば
業界の常識が変わる。

 

これから取り組んでいきたい課題などはありますか?

福井「携帯電話からでもちょっとしたトレーニング法やケガなどの応急処置の方法が見れるサイトを作ろうと進めています。現在でも『知っておきたい』基礎知識を電話相談や書面にして配るなどの対応などはしているのですが、皆さん移動が多いですし、紙も持ち歩かない。対応しきれない部分もありますので、何か困った時にいつでも携帯さえあれば便利に使ってもらえるかなと」

小曽根「そういう形でもケアの必要性なんかを感じてもらって、さらに一歩踏み込んでもっとパーソナルな部分での必要性を感じて、セミナーに参加してみようとか会員になってみようかなと思ってもらえれば」

福井「あとはやはり協会や団体、劇団さんなどのオーダーでのプランニング作りには力を入れていきたいんですね。やはり一個人の認識が高くなっても動きがとれない部分もありますし、組織として取り組んでいく姿勢が出来れば業界の常識が変わると思うんです」

小曽根「セミナーなんかで学んだ人たちが、実際稽古場に行くと先生の言うことを聞かなければならないから、思った通りには出来ない、っていう問題もあります。でもその人たちが指導者になったら変わっていくんだろうなと思いますし、先生から意識を変えていくのも大事なので、指導者向けのセミナーなども開催してるんです」

意識を変えていくには時間がかかりますね。

小曽根「そうですね、3年5年ではなくて、私は100年計画って言ってますけど(笑)
でも大御所と呼ばれる方の中にも、若い人に交じって学びたいって参加下さる方もいてとても心強いんです」

松元「やっぱり長くやってらっしゃる方はそういったことにも意識が高いですよね」
 
 to R mansionでは稽古に入る前にそういったトレーニングのようなことをされるんですか?

松元「4月の1日から年度が変わったと言うことで午前中の稽古は基礎練習をしようということになったんです(笑)。
パントマイムのトレーニングなんですけど、体の中に軸を作る為の筋トレとかを改めてやったりすることで、今まで経験としてやっていた動きを再確認できるし、足りないところが見えてきたりして面白いですね」

 座長の上ノ空さんが仕切って行く感じですか?

松元「上ノ空は大阪のマイムのカンパニーで厳しい基礎練習を積んできた人なので、それを実践したり、ウチのカンパニーは私がダンスで演劇畑の人もいるので、それぞれの方法論を出し合ってやれたりするのもいい部分かも知れません」

芸術家のくすり箱

ヘルスケアセミナーの模様

 アーティスト会員さんの年齢層はどのあたりが厚いんでしょう?

小曽根「やはり30代が圧倒的に多いですね。20代はとりあえず今やれることを、って思っていて、30代になってこの道で生きていこうっていう覚悟が出来てくると考えるんでしょうね」

松元「20代は出れる場所を探す方にばかり目が行ってしまいますから」

小曽根「それに新しいトレーニングを取り入れるっていうことは、今までの習慣や形を崩すっていうことなんです。それに対する恐怖もありますし、挑戦でもあるんです。そういう部分でも覚悟が必要ですね」

福井「体の中に変化をもたらすのは、決して一瞬にして効く魔法をかけるわけじゃないんです。色んなトレーニングやコンディショニング方法があって、ちょっとずつでも試しながら自分になじませていく、それには時間がかかるんです」

小曽根「そういったトレーニングはセミナーやレッスンにしょっちゅう行けなくても日常の中で取り入れていけるものもありますから、例えば稽古場でそういう時間をきちんと作るとか、そういう風に習慣化していくのがとても大事なんだとおもいます」

福井「言葉にしてしまうとありきたりになってしまうんですけれど、自分の体と向き合う、自覚して取り組んでいく、っていうのがとても大事で、それが多くのアーティストに伝わればいいなと思っています」

松元「自分の体がどうやって動いているのか、体の中のことを知るのはとっても大事でなんです。つくづく思いますよ(笑)」

小曽根「環境が変わるまではまだまだ時間がかかるかも知れないですけど、少しずつ手応えは感じているので地道に頑張っていこうと思っています」

芸術家のくすり箱

 

 

 体が資本、当たり前のことではあるが、資本をケアするとなると、とたんに当たり前ではなくなってしまう。
 努力と根性が大好きな日本人にとっては、ケガなんて気合いで乗り切れ、というのが美徳の部分もある。
 アーチストにとってパフォーマンスは生きる意味にも近い。元気で長生きが当たり前のことなら、元気で長くパフォーマンス、というのも当たり前なのだ。
 それをきちんと謳ってくれるお二人の活動がもっと広く伝わって、100年計画と言わず早々に当たり前に事になるのを願うばかりだ。それによって私たちが客席で素晴らしいパフォーマンスをずっと楽しめるのだから。

 アーティストの皆様、何卒ご自愛の程宜しく願いまする!

 


■■■■■■■■■■■■ セミナー開催情報 ■■■■■

芸術家のくすり箱
ヘルスケアセミナー Vol.6

芸術家のくすり箱

〜しなやかに、たくましく〜

"芸術家の最高の輝き"をサポートする【ヘルスケアセミナー】。今回は、"しなやかさ"と"たくましさ"をテーマに、芸術家の可能性をひろげるプログラムをラインナップしました。自分自身を静かにみつめニュートラルな自分に戻る時間にするもよし、あらたなトレーニング法に出会うチャンスとするもよし。あらゆるアプローチでのヘルスケアを実践できるのはこのセミナーならでは。17プログラムからご自由に組み合わせて、これからの豊かな芸術家人生をひきよせる充実した1日をご堪能ください。

2011年6月12日(日) 芸能花伝舎にて開催

●ワークショップ(各・一般3000円/会員2500円)
・ジャイロキネシス
・チューブトレーニング
・俳優のためのヴォイストレーニング
・ヨガ
・フェルデンクライスメソッド
・野口体操
・マッサージから始める 野口体操2
・ダンサーとしてのボディコンディショニング

●講座(各・一般2000円/会員1500円)
・ベストパフォーマンスのための食生活
・ベストパフォーマンスのためのメンタルトレーニング
・芸術家のヘルスマネジメント
・いざというときの応急処置

・パネルディスカッション(一般1000円/会員無料)

●個別 各種測定・相談
・健康診断(一般5000円/会員3500円)
・体力測定(一般2000円/会員1500円)
・個別相談(各・一般1000円/会員500円)
 スポーツドクター
 管理栄養士

受付4月21日(木)からです。
詳しくは
http://www.artists-care.com/

 

アーティスト、パフォーマーの方々、この機会に是非!

 


セミナー写真提供・芸術家のくすり箱  取材撮影・スズキマサミ