★ゲストコラム1 2011年1月
「〜立原道造の詩に向き合う〜」
琵琶奏者・川嶋信子(谷中琵琶Style)

2009年にゲストで出て頂いた琵琶奏者の川嶋信子さん。東京の下町・谷中をベースに活動を展開し、琵琶のユニット「谷中琵琶Style」での公演も回を重ねて6回目の公演を2011年1月29日に開催します。
そんな川嶋さんに琵琶での新曲創作に賭ける想いをしたためて頂きました。

琵琶奏者・川嶋信子(谷中琵琶Style)

谷中琵琶Style  左・久保田晶子 右・川嶋信子



〜立原道造の詩に向き合う〜


谷中琵琶Styleという谷根千地域を拠点にした活動は今年で5年になる。
〜この町のどこからか琵琶の音が聴こえてくる〜
琵琶が町に溶け込んでいるイメージの演奏会は、
町に愛されている空間選びを大切にしてきた。
そして平家物語に代表される合戦ものを弾き語る琵琶に
新たな可能性を見つけたい、と創作曲にも挑戦している。

谷中琵琶Styleは琵琶2人(川嶋と久保田)の企画名である。
本来1人で弾き語る琵琶を2人で演奏するには、
新たに創作するしかない。
それは時間を要するが、2人で演奏する事によって表現の幅が広がり、
音数や華やかさも増すのだ。

琵琶奏者・川嶋信子(谷中琵琶Style)

その中で今回、取り上げてみようと試みたのは立原道造。
私の本棚に眠っていた立原道造の古い詩集。

少女の頃にその詩集の中に見つけた言葉、
「風信子」……ヒヤシンスと詠む。
自分の名前が華麗な花の名の中に……。
憧れを持って開いたその詩集には、
道造の繊細な心模様が描かれていた。

そして今、大人になった私は琵琶を手にしている。
"言葉ありき"のこの楽器の表現に立原道造の言葉を乗せられたら……。

そして理由はそれだけではなく、
この谷根千地域が道造ゆかりの場所だからなのだ。
彼は東京大学の建築学科を卒業しており、第一高等学校時代から数えると
6年の歳月を弥生(根津の隣町)で過ごしたことになる。
そして24歳という若さで逝った彼は
谷中の多宝院というお寺に眠っているのだ。
弥生にあった『立原道造記念館』が昨年の秋に閉館した事も重なって、
道造を取り上げたいという気持ちは固まった。

琵琶奏者・川嶋信子(谷中琵琶Style)

琵琶の曲を創るということ。
それは、無責任かもしれないが正しく"チャレンジ"なのだ。

本来、古語で物語をかたる琵琶歌に
道造の言葉が適っているかどうかも分からない。
しかし、その言葉に自分の気持ちが動かされたという事、
やってみて分かることがあるという事、それを信じるしかない。
そしてたくさんある道造の詩の中から、10分ぐらいの作品になりそうなものを探す。
演奏会の構成上長すぎても短すぎても具合が悪く、10分程度が好ましい。
琵琶の古典曲は物語をかたるため、短くても15分あるのが普通だ。
もう少しコンパクトで印象的な曲を……、と実はいつも思っているのだ。

曲を作る中で、詩と向き合うほどに
「唄ってしまったら道造の詩のニュアンスが伝えきれない……」、
そんな不安が膨らんでゆく。
道造の詩は合唱曲にはなっているが、琵琶歌として節に乗せるのとでは随分違う。
作曲に取り掛かる前から前途多難。
そうこうしてるうちに
やっとの思いで選んだのが "ゆくての道" という短い4行詩と "夢のあと" という詩。
二編に共通するのは月の情景。
暗澹たるしづかな夜。その中で渦巻く行き場のない思い。
そんな印象を受けたこの詩に琵琶の音をどう乗せるか。
そして2人用の曲としてどう構成するか。
大きな柱は進めていくうちに琵琶の音自体が導いてくれるが、
歌の部分と弾く部分、2人がどう絡んでくれば効果的なのか。

果して…!?

琵琶奏者・川嶋信子(谷中琵琶Style)

何とか紙の上で出来あがったものを元に、まずは自分のイメージを相手に伝える。
譜面の説明をしつつ、実際に2人で音を出してみるが
"こんなはずじゃなかった"という事が起こるのは常。
音の重なり具合などは修正しながら2人で創りあげてゆけるが、
作曲した側の思いを共有する、という作業はなかなか難しい。
しかし決して独りよがりではなく、
相手にも"おもしろい"と思ってもらえる曲でなければ生きてこない。
有効な共同作業。
いつもここを目指しているが、個性の違う2人が向き合えば上手くいかない時もある。
でもだからこそ、自分にはない発見があり、
1人でイメージしていた時以上のものが生まれたりするのだ。
それぞれの個性……、それは"繊細さと力強さ"ではないかと思っている。
その違いを楽しみながら、作り上げる曲。
今回のこの曲は一体どうなるだろう?
本人たちにもまだ分からない。

琵琶奏者・川嶋信子(谷中琵琶Style)

琵琶に相応しいもの。
それは琵琶に携わっている人にしかなかなか分からない。
いや、琵琶に携わっている人にとっても曖昧なものかもしれない。
だからこそ探ってみる。
守りたいものを大切にしながら、探っていくことを忘れないでいたい。
不安と隣合わせでも、"やってみること"。

あとは聴いていただいたお客様に判断してもらうしかないのだ。

 


 

★公演情報★

琵琶奏者・川嶋信子(谷中琵琶Style)

谷中琵琶Style Vol.6
「女もすなる 琵琶というものを・・・」

2011年  1月29日(土)
14時開演/19時開演の2回公演 ※開場は30分前より

会場: 根津教会 (文京区根津1−19−6)
http://www15.ocn.ne.jp/~nzc/map.html

料金:予約 2500円  当日 2800円

詳しい情報は
● 谷中琵琶Style HP
http://music.geocities.jp/yanakabiwastyle/


撮影協力・光源寺   撮影・スズキマサミ