丸一仙翁社中(まるいちせんおうしゃちゅう)



「門付け」日本橋界隈


●獅子、舞う

 御祓いと奉納太神楽の後は、もうひとつのメインイベントとも言うべき門付け(かどつけ)へと向かいます。
 門付けというのは、人家の門前で藝をして金品を貰いうける風習の事で、かつてこの国では門付けをしながら諸国を巡り生活していた藝能者が数多く存在していました。彼らは単に藝を見せるだけではなく、離れた土地の噂話を運んでくる報道メディアの役割をも担っていたのです。
 知らない人がインタフォーンを鳴らすだけでも気味悪がられる現代では、今昔の感に堪えない形態ともいえます。しかし丸一仙翁社中では今でも日本橋〜京橋間を毎年正月、門付けをして廻っています。この街には、まだそうした気風が残っているのです。
 彼らを喜んで毎年迎えてくれるのは、例えば老舗の企業である榮太樓や山本山。

江戸太神楽 丸一仙翁社中

榮太樓總本鋪にて寿獅子舞

江戸太神楽 丸一仙翁社中

ご祝儀を拝領

江戸太神楽 丸一仙翁社中

仙翁師匠と花仙による仲むつましい曲撥(きょくばち)


 日本は創業100年以上の企業が10万、200年以上の企業が3000以上あると言われている老舗大国ですが、中には古いだけで経営は火の車なんて会社も少なくありません。
 不況の嵐の中、昨年は仕分けがもてはやされたのは記憶に新しい所です。無駄を省くのを目的とする視点から見れば太神楽にご祝儀を渡すなどは、無駄の骨頂と考える向きもあるでしょう。しかし、太神楽をずっと呼び続けている老舗は今でも元気なのです。

江戸太神楽 丸一仙翁社中

山本山にて寿獅子舞

江戸太神楽 丸一仙翁社中 仙若

山本山の従業員さんも皆カプリと噛まれて魔除け


 もちろん太神楽で新春を慶ぶのは老舗ばかりではありません。真新しいビルの中で営業をしている企業、個人のお宅、町の中華料理屋さん等々。さらには、ふと出くわした通りがかりの人々……。

柳屋ビルディングのオフィスでもひと踊り

唐揚げが美味しいと評判の路地裏庶民派の名店、南ばんで曲撥を披露

もう仕事始めのビジネスマンも、ひととき正月気分を味わう


 そして今は数少なくなった個人宅へも門付けに。
 先代の師匠の代からですから半世紀以上前から門付けで訪れている境井様宅。親戚から町内会の方々まで揃って観賞するのが半世紀以上も続く恒例の行事。
 そこは修業の成果を毎年観て頂ける場でもあります。一番若手の花仙さんに「巧くなったね〜」の声も飛ぶ。
 お座敷で繰り広げられる曲藝の妙技に笑い、拍手をおくる光景は、現代で失われつつあるのは門付けの文化だけではなく、家族が皆で一緒に過ごす時間でもあった事うを気付かせてくれます。

江戸太神楽 丸一仙翁社中

六畳間でも勇壮に舞う

江戸太神楽 丸一仙翁社中

若い二人が伝統を引き継いで行く

江戸太神楽 丸一仙翁社中

半世紀以上続く、お正月の変わらぬ光景


「昔は日本橋から京橋までを二十日かけてまわったんですよ。(当時の)親方はその稼ぎで一年間食べていけた。相撲取りを、一年を十日で暮らすいい男、って言ったでしょ。親方は、一年を二十日で暮らすいい男だった(笑)」

 仙翁当代親方は、そんな話を挟みながら、昭和二十三年の入門以来ずっと見てきた街の移り変わりを語ってくれました。
 伊勢神宮や熱田神宮にお参り出来ない人の為の出張が太神楽の起源だとする説があります。旅から旅を回ったであろう太神楽にとって、門付けとは過去から現在を繋ぐ行為なのかもしれません。

「今、知らないお店に門付けしようとすると、手で追っ払われたりするからね」

 街と共に、人々の心は変わってしまったのでしょうか?

 

江戸太神楽 丸一仙翁社中

たいめいけんでお食事中のお客様にも、金回りの良くなる藝、傘の曲を披露

江戸太神楽 丸一仙翁社中

獅子と一緒にパチリ。待ち受け画面にすると魔除けになる!?

江戸太神楽 丸一仙翁社中

街角で獅子は人気者。頭噛みまくり、写真撮られまくり


 今回の取材で印象的だったのは、獅子舞が始まると企業の方が、遠巻きに見ている一般の方に向かって「どうぞ見ていって下さい」と声をかけていた事でした。ついでに商品を売りつけようなんて毛ほども思っていない。
 そういえば深川不動尊でも「春から運が良かった」と言う人がいました。
 太神楽とは、皆の幸せを分け合い、共有する為の藝なのではないか。そんな事を考えていると、獅子舞に興味津々の家族が目に入りました。

仙次 一つ鞠の曲

 人の心は、まだ変わっていないのです。ほんとうは。

 

取材にご協力下さった皆様、ありがとうございました。
・深川不動堂 様
・株式会社 榮太樓總本鋪 様
・株式会社 山本山 様
・株式会社 鹿島組 様
・柳屋ビルディング 株式会社 様
・南ばん 様
・株式会社 たいめいけん 様
・弥乃音HOUSE 様
・境井 様
・町内会の皆様

江戸太神楽 丸一仙翁社中

日本橋界隈では毎年1月4日と5日に丸一仙翁社中による門付けが行われています。ぜひウチの店にも、ぜひ我が社にも、と思われた方はご一報、ご相談下さい。

● 丸一仙翁社中(まるいちせんおうしゃちゅう)HP
http://www.edo-daikagura.com/


撮影・スズキマサミ