★藝能往來お薦め公演 2011年3月
活動写真弁士・片岡一郎
オーストラリア公演レポート

 

 日本が大変なのです。
 それは誰もが感じている。勿論、藝能に生きている人間も感じている。でもすぐに何が出来る訳でもない。藝能者の多くが同種のフラストレーションを抱えているように見受けられます。
 こんな時に何が出来るか、藝能往來でも考えていきたい事ではありますが、反面、非常時の事ばかり考えるのが藝能の仕事ではありません。いかに日常を大事にするか、が重要であったりもします。
 そこで、3月1〜13日の私のオーストラリア公演のレポートもここでさせて頂きたいと思います。

江戸太神楽 丸一仙翁社中

オペラハウスのポスター

 

 今回、私が伺ったのは、アデレードのアデレード映画祭2011、メルボルンのacmi(オーストラリア映像センター)、シドニーのシドニーオペラハウス、キャンベラのNFSA(ナショナル・フィルム アンド サウンド・アーカイヴ)の4箇所でした。
 国外からパフォーマーを呼ぶ場合、何が最大のネックになるかというと、渡航費・滞在費です。要するにお金の問題ですね。そこでアデレード映画祭が中心になってツアーを組み、日本から弁士を呼んだという仕組みです。逆に言えば、地元のネットワークがしっかりしている所であれば、ツアー形式の長期公演が組みやすいと言えます。

 そしてあらためて実感したのは、海外の人達は日本の文化には関心がある、という事です。今回も映画ファンだけではなく、日本の文化に対しての興味で御来場下さった方が多く居ました。中には以前、藝能往來で取材をさせて頂いた丸一仙翁社中の仙丸さんを知っているというオーストラリアのジャグラー、なんて方もお越し下さった会場もありました。

江戸太神楽 丸一仙翁社中

3月3日 アデレード映画祭2011が行われたシネマピカデリー。1920年代からある映画館

江戸太神楽 丸一仙翁社中

3月5日 メルボルンの会場 acmi

江戸太神楽 丸一仙翁社中

3月6日 20世紀を代表する近代建築物であるシドニーのオペラハウス

江戸太神楽 丸一仙翁社中

3月9日 キャンベラの会場 NFSA

 

 では、現地の反応はどうだったのか?
 この話題に入る前に、今回の上映形態について説明させてください。
 まず、日本語の藝能である活弁を海外で公演する場合、多くの人が疑問に思うのは「言葉は何語でやるの?」という部分だろうと思います。弁士の中には英語活弁に挑戦している人もおりますが、私は今回も、過去3回の海外公演も全て日本語で語らせて頂いております。何故かと言えば、私は英語では感情表現が自由に出来ないからです。
 となると必要になるのは字幕です。これまでの海外公演では、あらかじめ自分の台本を先方に渡しておき、現地の言葉に翻訳、公演に合わせて字幕投影という方法を取ってきました。ところが今回は少し事情が違いました。英語字幕は私の師匠の澤登翠の台本を元に作られたものでした。
 この場合、選択肢はふたつあります。
 ひとつは師匠の台本どおりに語る。この方法をとれば、お客さんには分かりやすい公演になります。
 もうひとつは、いつもの公演のように私が自分用の台本を書き、字幕はあくまで物語を理解する為の補助として考え、あくまで自分の藝をするというものです。
 私は後者を選びました。なぜならば活弁という藝は、弁士が映画をどう解釈するかが重要だからだと思っている為です。その結果、日本語の分からない方には見づらい、分かりづらい公演になってしまった事は否めませんし、お客さんの反応が必ずしも私のパフォーマンスに対してでなかった可能性もあります。それでも、時分の藝を見せるためには、これしか方法が無かったのです。
 それらを前提にしてではありますが、お客さんの反応は素晴らしいものでした。
 一例をあげましょう。今回の旅で回った会場はどれも素晴らしい会場ですが、その中でも藝能者としては胸踊るのは、何といってもシドニーオペラハウスです。そのオペラハウスのスタッフが「こんなに良い反応は滅多に無い」と大喜びしてくれる程に評判は良かったのです。
 なぜこんなに好評を得ることが出来たのか。珍しかったから、というのもあるでしょう。ですがそれ以上に感じたのは、自分達が持っていない文化や技術に対しての敬意でした。

江戸太神楽 丸一仙翁社中

3月9日11日 ピアニストのジョシュア氏の生演奏付き


 映画は発明されて以来、瞬く間に世界中に広まったのです。すなわち、どの国にも無声映画を受容してきた歴史はある。にもかかわらず、弁士の文化が育ったのは基本的には日本のみです。世界の人々は、日本の歴史に拍手を送ってくれたのだと思います。
 とある日本人の方に「日本に自信が無くなっていたのだけれど、自信を取り戻せた気がする。ありがとう」と言って頂いたのも忘れられません。どうやら、日本人は自分達が世界に誇れる文化を持っている事実すら忘れてしまいがちのようなのですね。これはやはり藝能往來にでて下さった皆様、これから出てくれるであろう皆さんを率いて海外ツアーをせねばならんと思います。きっと賞賛の嵐に違いありません。今回の旅では日本国総領事館の方、日本大使館の方、国際交流基金の方とも知り合えたので、上手いこと仕掛けてゆきたい所です。

江戸太神楽 丸一仙翁社中

3月3日 リハーサル風景


 
ちなみに何の問題も生じなかったかというと、そんなに上手いことはいきません。デジタル素材のフォーマットが合わず上映が危ぶまれたなんて事や、地震の報せを聞いた後にドタバタ喜劇を演らねばならなかったりと、気苦労もあるにはありました。ですが、そんな問題よりも是非伝えておかなければならない事が2点あります。
 どちらも日本の文化に対する意識の問題です。
 実は今回のツアーに当たって、日豪両側から日本の助成金制度を利用できないか働きかけをしたのだそうです。結果として助成金はおりませんでした。理由は「活弁は伝統文化ではない」だそうです。10年ほど前、私の師匠が国内ツアーをする時にも助成金を申請して同様の理由ではじかれた事があるらしいのですが、状況は全く変わっていませんでした。ですが、この10年の間に澤登翠が文化庁主催芸術祭演芸部門で優秀賞を受賞し、また平成21・22年と連続で映画フィルムが重要文化財指定を受けているにも関わらずです。伝統とは、文化とは何なのかを問い直す時期に来ていると感じずにはいられませんでした。

 そしてもうひとつはオーストラリアで若松孝二監督の『キャタピラー』を上映しようとしたところ、日本からのストップがかかったというのです。若松監督は確かに公安からいまだにマークされているとの話も聞きますし、穏やかにはいかないでしょう。ですが海外の映画人が上映を望んだ作品(イリーガルな作品なら分かりますが)を、行政の判断で流れを止めてしまってよいものでしょうか。個人輸入でDVDなどは簡単に手に入る世の中にナンセンスな対応だと私は感じました。『おくりびと』は喜んで海外上映を推進しているらしいのです。なにか妙。

 最後は愚痴っぽくなってしまいましたが、今回のオーストラリアツアーは未来に繋がる公演でした。NFSAのスタッフさんからは「オーストラリアの無声映画でなにがやりたい?」と含みのある質問をされた事を最後にご報告しておきます。

 

江戸太神楽 丸一仙翁社中

オーストラリアにあった日本文化の象徴(?)のアニメショップ「SHIN TOKYO(新東京)」親日の証である