★体験レポート 2013年7月
芸術家のくすり箱
ヘルスケアセミナーvol.8

(体験者)サーカスエンターテイナー・サクノキ

 以前ゲストでお話しを訊かせて頂いた、芸術活動をするアーティストを医療やトレーニングの部分からサポートするNPO法人「芸術家のくすり箱」さんで毎年開催しておられるヘルスケアセミナーを今回は取材させて頂きました。
 ヘルスケアセミナーとは、健康診断から医師による個別相談、ワークショップから講座まで、様々な内容で医師・講師がアーティストとその活動について語り合い相談し合う場です。今年で8回目。回を追うごとに参加者も増え、内容も充実してきています。
 さて今回の取材には、このセミナーを受けねばならない藝人さん、サーカスエンターテイナー・サクノキさんに参加して頂きました。
 サクノキさんは今年1月、稽古中に内側側副靭帯損傷のケガを負いました。しかし翌月にはもうアクロバティックな舞台の稽古に参加し、3月にはもう舞台復帰、という荒技(?)を成し遂げてしまいました。
 その後、治療の過程でヒザ裏の十字靱帯も損傷していることが発覚し、ケガと肉体と上手く折り合いをつけて活動していくかを考えなくては行けない状態でした。そこで今回のセミナーに参加して頂いた次第です。

健康診断から講義、ワークショップまで16のプログラムの中から今回は「健康診断」、個別相談「食事・栄養カウンセリング」、ワークショップ「ジャイロキネシス」、パネルディスカッション「ダンサーが故障から復帰するまで」の4つのプログラムを体験して頂きました。

●サクノキ(サーカスエンターテイナー)
1987年8月4日生まれ
高校卒業後、群馬にある沢入国際サーカス学校にて4年間の実習期間でジャグリングやアクロバット等の サーカスアクトを習得。
2010年度 東京都認定パフォーマー ヘブンアーティストのライセンスを取得。 以後、プロとして本格的に活動を始める。
一切言葉を使わず、時にはコミカルに、時には神秘的にサクノキの世界を皆と共有出来るような サーカスエンターテイメントをお届けいたします。
世界でも珍しい、巨大な立方体を操るキューブアクトは必見です。
サクノキHP
 http://profile.ameba.jp/saku8749/

●特定非営利活動法人 芸術家のくすり箱
芸術活動をするアーティストと、医療やトレーニングの部分からサポートする医師・理学療法士・保健師・栄養士・治療師・トレーナーなど、身体に関する専門知識と技能をもつ有資格者を会員とし、双方のマッチングや、セミナーや調査を中心として活動しているNPO法人。
芸術家のくすり箱HP
 http://www.artists-care.com/
藝能往來でのインタビューは
 http://geinou-ourai.com/file_b07.html




「気にしていながら
おろそかにしていた部分です」

 まずケガをしたときの様子を聞かせて下さい。

サクノキ「1月の下旬に舞台の稽古中に滑って右足をひねったんです。その時は次の日になったら良くなってるだろう、くらいで考えてたんですけど、痛みが引かなくて病院に行ったらヒザの靱帯が部分断裂してるよ、って言われて」

 公演間近だったんですよね。

サクノキ「本番は1週間後でした。いつもは大道芸で一人でやってるんですけど、その舞台はカンパニーの旗揚げ公演で……。
ギプスで3週間固定されてて、それで動ける範囲なら出演もOKってお医者さんには言われたんですけど、それでやれるパフォーマンスじゃないですからね」

 でも2月の半ばにはもう次の舞台の稽古に参加されてますよね。私もその舞台に撮影で参加しましたが、入る前に “サクノキ靱帯断裂!!" という情報は入っていて、稽古場に行ったら、普通に飛んだり跳ねたりしてて、靱帯ってそんなに簡単にくっつくの? という疑問符が頭に渦巻きました(笑)

サクノキ「ギプスが取れて1週間は思うように動かなかったんですけど、検査の結果大丈夫って言われました。
でもかなり慎重にやってましたよ(笑)」

 その後の経過は?

サクノキ「内側側副靭帯は完全に治ったって言われたんですけど、検査中にヒザ裏十字靱帯に傷が入ってることがわかって、大きい病院で再検査することになって」

 それは凄いケガなんですか?

サクノキ「サッカー選手やアスリートによくあるケガみたいなんですけど、完治するケガじゃなくて、周りの筋肉を鍛えることでカバーしていくしかないみたいです」

 リハビリ的なトレーニングをするしかないんですね。

サクノキ「もう欠かさずやってますよー。
リハビリの先生に、あなたの足はサッカー選手並だから大丈夫でしょうって言われました」

 そんなアスリート並の肉体にするため今までもトレーニングガッツリやってたんですか?

サクノキ「サーカス学校の時はガッツリ体操と筋トレをやってましたよ。それまでは幼稚園から小学校6年まで水泳やテニス、高校までバスケなんかをやってて、元々筋肉質なんですけどね。最近はジムとかも通ってないし、そんなにトレーニングしてなかったんですけど、パフォーマンスの練習がそうさせたんですかね?」

 サッカー選手並の肉体になる大道芸って、凄すぎます(笑)

靱帯損傷から40日後の公演「フライングシュワシュワカーニバル」にて、全開全力のパフォーマンス。

 

 健康診断とか定期的に受けていますか?

サクノキ「いや全然。高校卒業してからは一度も。でも一度MRIに入ったことがあって、その時にヘルニアになりやすい体だから気をつけて、と言われたことはあります」

 今はヘルニアに症状は出ているのですか?

サクノキ「今のところないです」

 サーカス学校ではそういった健康面での管理やサポートはなかったんですか?

サクノキ「山の中にあった学校なんで、村のお医者さんがいたくらいですね。特別そういったサポートや授業はありませんでした」

 今までの活動の中で、ケガは今回が初めてですか?

サクノキ「小さいケガはしょっちゅうですけど、大けがは初めてでした」

 となるとやっぱり体のケアの重要性はそれを機に考え始めたという感じでしょうか。

サクノキ「そうですね、今まで気にしていながらおろそかにしていた部分なんで、今回はいい機会です」

 

●健康診断

 何年かぶりの健康診断になりますけれど、何か気になるところはありますか?

サクノキ「食生活があんまり健全だとは思えないので、それで血液とかドロドロになってないかな〜っていう不安はちょっとあります」

 健康診断は次の流れで行われる。

・身長体重測定〜視力測定〜血圧測定〜採血〜心電図〜聴力測定〜レントゲン撮影

 結果は半月後に届けられる。とりあえず今回は無事健康体ということでひと安心。
 ちなみに心電図や血液検査まで行って、5000円というのは相当お得な料金です。

 

●個別相談「食事・栄養カウンセリング」

 当日まで1週間のスケジュールと食事内容を記した表を元に質疑応答での個別相談。応じて下さるのは管理栄養士・健康運動指導士の岸昌代先生。

岸先生「1週間も食事の記録をされたとは、すばらしい! 朝食もちゃんと食べられてるんですね」

サクノキ「朝食は食べるようにしてます。コーンフレークに牛乳、っていうことが最近は多いです。あとちょっと時間が不規則になって昼過ぎに起きることがあったり、起きてから時間が経ってから食べたりすることもあるんですけど」

岸先生「コーンフレークに牛乳は良いですよ。そこに果物なんか入ると更に良いですね。多少起きる時間が違っても一日三食しっかりとることで、生活のリズムが整えられていますね。
記録には、たびたびカレーライスが登場していますが、カレーがお好きなんですね。カレーには、肉や芋、野菜など、いろいろな食材が入るので、炭水化物、たんぱく質、ビタミンと様々な栄養素をとることができるんですよ。ただ、市販のカレールーには油が多く含まれているので、別の野菜料理なども組み合わせて食べるとよいですね」

サクノキ「子供の頃から生野菜が苦手で、キャベツの千切りとかレタスとかは食べれるようになったんですけど」

岸先生「食べれる野菜で何か他に料理とかされますか?」

サクノキ「キャベツ、レタス、もやし、ほうれん草、ニラ……。ほうれん草やもやしなんかはとりあえず炒めて食べてます。」

岸先生「今回の食事記録では、色の濃い野菜が少ないように感じられますが、ほうれん草やニラなども食べられるのですね。色の濃い野菜にはビタミンやミネラルが豊富に含まれているので、ぜひ積極的にとり入れていただきたいです。茹でて、お浸しにしてもよいし、中華ダシやトマトジュースなんかで煮込んでスープにしてみるのも手軽で良いと思います。時間がないときには野菜ジュースで補うのもいいし」

サクノキ「あぁ……野菜ジュース苦手で(苦笑)」

岸先生「じゃあ、手軽にできる料理に挑戦してみてください。効率よく炭水化物が体の中で利用されやすくなりますし、疲れにくくなるっていう効果もあるので」

サクノキ「大道芸のイベントとかになると、朝はしっかり食べていくんですが、パフォーマンスの間に食事が取れなかったり食欲が湧かなかったりして、食べなきゃって思うんですけど何を食べたらいいのか」

岸先生「出来ればパフォーマンス前やパフォーマンスの間に、おにぎりやバナナなどで、炭水化物を補っておいた方が、筋肉にグリコーゲンというエネルギー源が蓄えられやすくなります。
食欲がない場合は、ゼリー飲料やスポーツドリンクなどでも大丈夫ですよ。」

サクノキ「食欲が湧かずに水分ばっかり摂ってることがよくあって、夜になっても何かお腹がすかないとかいうことがあるんです」

岸先生「実は、パフォーマンス後も炭水化物やたんぱく質などを早めに補給するとよいのですよ。次の日のためのエネルギー源を蓄え、疲労回復を促してくれるんです。おにぎりやうどんなどを食べられるとよいですが、食欲がないときには、ヨーグルトやオレンジなどの果物などを食べてみてはいかがでしょうか」

サクノキ「あとそういう現場ではお弁当が出たりするんで、それを食べるべきか悩むんです(笑)」

岸先生「パフォーマンス前のお弁当は、ご飯中心に食べて、おかずは「油を控えめ」にするのがポイントです。たとえば、焼き物、煮物のようなものはよいのですが、揚げ物のようにたっぷり油を使った料理が入っている場合には、衣を残す、食べる数を減らすなど工夫をするとよいと思います。
(表を見ながら)このパフォーマンス前に、食べたソフトクリームも脂肪分が多い食品です。甘いものが食べたいようでしたら、カステラとかあんパンとか、生地に油を使っていないものをおすすめします。」

サクノキ「油ものは絶対ダメですか」

岸先生「食事からパフォーマンスをするまでの時間にもよりますが、競技前の選手には油ものはダメって言います。大道芸の方は競技選手以上の動きをされる方いますよね(笑)」

サクノキ「ですね(笑) 自分でもパフォーマンスをする場合の体のコンディションの作り方とか、こうしたらいい、っていう正解がなくて、食事とかでも変わるのかなって思ってたんですけど」

岸先生「ハードに身体を動かす方には、一般的な理論から、パフォーマンス前には、炭水化物を中心にとり、脂質を控えたほうがよい、とお話しをしますが、自分の好きな物を食べた方がモチベーションが上がるぞ!っていう場合もありますので、そこはいろいろと試していただきながら、自分に合った方法を見つけていただきたいと思っています」

 食事面でもできる事からやってみましょう、というお話しで、「生野菜をもっと食べなきゃダメ! って怒られるかと思ってた(笑)」というサクノキさんも、安心して(?)勉強になったということでした。

 

●ワークショップ「ジャイロキネシス」

講師・井上朱実(スタジオナチュラルフロー代表、ジャイロキネシス/ジャイロトニック・マスタートレーナー)

 まずあまり聞き慣れないジャイロキネシスとはどういったものか。井上先生の解説からスタート。

井上「生きるということは動きを通して生を表現することで、その為に持って生まれた動きというのは誰にでもあります。だた生活していく中で、例えばダンスをする人であったり、まったくジャンルの違う大工さんでも、日常的にパターン化してしまった動きの中で、持って生まれた自然な動きというのを忘れてしまうんです。ジャイロキネシスはそういった自然の動きを思い起こさせてくれるものだとお考え下さい。
まず今日はとりあえず動いて、動いたことでどこがどう変わるか、というのを発見する旅にして下さい」

 まず準備体操から。

井上「手を擦り合わせ、熱を発生させる。エネルギーを体から集める。
そしてそのエネルギーで目元や耳元をぬぐい神経を研ぎ澄ます。
次に目や額などをマッサージ、頭皮もマッサージし毛穴を開いてすべてで呼吸しやすい状態にします」

 続けて鼻や耳もマッサージ。

井上「指を一本一本引っ張って、体に停滞しているものを全部絞り出します。するとそこに新しいスペースが出来るので、体の奥のエネルギーがそこに向かって流れようとします。細胞を目覚めさせて手をエネルギーの出口にしてあげます」

 続いて腕、肘、肩、脇、胸、腹、背骨、大腿部、ふくらはぎ、と優しく叩き曲げ伸ばす。

井上「からだは繋がってます。エネルギーが途中でブロックされないように流れを作ります。
内臓もお腹や肋骨の下からやさしく指を入れて動かし、骨から内臓をちょっと離し、スペースを作るような感じでほぐします。
足裏、指も手と同じように関節や骨の動きを確かめながらほぐしてエネルギーの流れを作ります」

 ここまでが準備。
 そして本格的に体を動かしていきます。激しい動きなどはなく、ゆっくり一つ一つの動きを、動いている肉体を確かめながら進めていきます。


 最後に椅子に座り、目を閉じて呼吸を整えます。

井上「目を閉じて、自分の体への観察を始めて下さい。色んな方向への動きや、色んなテンポでの動き、それに対して自分の体はどうだったでしょう? あの動きは心地良いな、という思いは記憶に留めます。あの動きは辛かったな、というのは全部忘れます」

 静かにレッスンは修了。

 体験してみてどうでしたか?

サクノキ「いや〜、体が目覚めた感じです。今すぐパフォーマンスをしたくてウズウズします(笑)」

 ここでやられても困ります(笑)
 普段パフォーマンスの前には入念なストレッチなんかはされると思うんですが。

サクノキ「会場にそういったことが出来るスペースがないことも多いので、家でやっていくんですが、移動に何時間もかかる現場もありますから、やっぱりパフォーマンスをしながら体を目覚めさせなければいけない状況の時もあります」

 体を目覚めさせる運動としては、今実感されてるようにジャイロキネシスは最適なんですね。

サクノキ「ジャイロキネシスやってみて、エネルギーの流れを作るとか、骨や関節や筋肉の動きを意識する、っていうのはとても参考になりました。


 

●パネルディスカッション
「ダンサーが故障から復帰するまで」

 腰椎ヘルニアを患ったコンテンポラリーダンサー・振付家の楠原竜也さんが、「ヘルスケア助成プログラム」を通じて無事に舞台復帰するまでの、リハビリやトレーニングの経過をダンサー自身とケアに携わった医師やトレーナー等から報告し、共有します。多くのダンサーが訴える腰痛の予防や対処法の参考に。


 今回、復帰をなさった楠原さんは、我流でダンスをやって来たが故に、自分やりやすい動き、使いやすい筋肉だけを使っていて、体のバランスが崩れていったことがヘルニアへの原因になったのではないか、ということでした。
 リハビリでPNF(身体に備わる「反射」を促通手技の結果として反応させて神経、筋機能の向上、各関節の可動域らの回復を図ろうとするものである) を取り入れ、動きに意識を持たせて体の使い方を改めて学んだそうです。

 ディスカッションを聞かれてどうでしたか?

サクノキ「そうですね。確かに僕も我流でパフォーマンスを作っているので苦手な動きはしてないでしょうし、意識していろんな動きにチャレンジとかもしてないですからね。
ヒザのケガでも実際左右の足のバランスが崩れていて、今リハビリトレーニングの中で治そうとしてる最中なんで、色々参考になりました。
あとケガをしても復帰までサポートしてくれるところがあるなんて驚きました。今回のケガは何とかすぐ復帰できましたけど、いつ何があるかわからないですから」

 誰でもサポートしてくれるわけじゃないんで、まずケガをしない体作りをすることですよ(笑)

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「芸術家のくすり箱 ヘルスケアセミナー」は毎年開催されて、毎回多種多様なアーティストのケアに繋がるプログラムが組まれます。
 個人的には劇場や興行スタッフの為の講座「劇場でのリスク管理〜傷病対策〜」というのが気になりました。次回はどんなプログラムが組まれるか楽しみです。
今回Vol.8の詳しいプログラムなどは下記を参照して下さい。

芸術家のくすり箱 ヘルスケアセミナーVol.8
http://www.artists-care.com/seminar/2013/03/vol8-2013616.html

 

◎ サクノキ公演情報
8月3日(土)
 ソラマチ大道芸
 東京ソラマチ 4Fスカイアリーナにて
 14時、16時、18時の3ステージ
 http://www.tokyo-solamachi.jp/new/event/9/

8月25日(日)
 アートタウンつくば2013 大道芸フェスティバル
 詳細未定
 http://www.tsukuba-cci.or.jp/arttown/

8月29日(木)
 浅草大道芸ナイト(大道芸ライブ)
 コシダカシアターにて 詳細未定
 http://www.koshidaka-theater.com 


撮影/スズキマサミ